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【仮説3】その1 「宇宙ひも理論-通常空間」 「宇宙ひも理論-ひも1本」 「宇宙ひも理論-ひも2本」 「海軍将校長門」 Illustration どこここ 「さあっ、はじまるざますよ。第一回時間移動技術会議でがんす」 ハルヒ、そんな数ヶ月もすりゃ元ネタが分からなくなるような賞味期限付きのネタはやめろって。 「こないだから熱心に勉強してくれているハカセくんがタイムマシンの作り方を教えてくれるわ。キョン、ちゃんと耳をほじって聞きなさい」 「そんな、涼宮姉さん、まだ理論も完成していません……」 ハカセくんがぽっと顔を赤らめた。思いのほか気が小さいらしい。 「まあまあ、小学生相手に理科の授業をやると思って、気楽にやってくれ」 朝比奈さんが入れてくれた緑茶で落ち着くと、ハカセくんはパネルを示しながら言った。 「今の科学で時間移動につながりそうな理論を探してみました。無限の長さの宇宙ひもを使った理論らしいのですが、一九四九年にクルトゲーデルという数学者が提唱しました」 「宇宙、ひも?そんな昔に?」 長門に付き合って宇宙という言葉にそれほど違和感を感じなくなっている俺だが、それにひもがついているのがどういう状態なのか、いくら考えても想像できない。 「宇宙ひもというのは、この宇宙が生まれたときに発生したと考えられているひも状の物体です。自転していて、質量がハンパじゃないくらいに大きいです。僕たちが住んでいる宇宙を帯のように横断しているんじゃないかと言われています」 なるほど。ともかく重たいひもらしい。 「これでどうやって時間移動するかというと、まず一枚目の絵を見てください」 黒い背景に青い円盤が水平に置かれている絵を指した。 「通常の空間では、このスタート地点から円のまわりを一周して戻ってくるまでに三分かかるとします」 これはふつうにある物理だよな。 「次に二枚目をご覧ください。円の中心に長さが無限の宇宙ひもが一本あります。このひもはすごい速さで自転していて、そのまわりでは時間と空間が巻き込まれる感じに歪んでいます。そして、このまわりを一周すると二分五十秒で済みます」 なるほど。空間と同時に時間も縮んでいると考えればいいのかな。 「三枚めをご覧ください。この絵では宇宙ひもが二本立っています。この二本は互いに移動しています。このとき、片方のひもの空間の歪みがもう片方の歪みを取り込み、一周するとなんとスタートした時間より三十秒前に戻ってしまいます。これが宇宙ひもによる過去への時間移動です」 じゃあ三本ではどうなるんですかと質問してハカセくんを困らせてはかわいそうなので、後で長門に聞くことにしよう。ハルヒはぽかんとした顔をしている。 「もう少し詳しい話をします。アインシュタインの一般相対論によると、物体のまわりは時間と空間が歪んでいることになっています。宇宙ひものような質量の高い物体のまわりでは空間が歪んでいて、さらに自転しているために回転方向に沿って捻じ曲がっているのですが、」 ハカセくんはもっといい例えはないかと考えていたようだが、ふと俺に目を向けた。 「風呂の栓を抜くと水がぐるぐると回りながら吸い込まれていきますよね、あんな感じに時空が捻じ曲がっているわけです」 分かりやすいっちゃ分かりやすいが、それは俺のレベルに合わせてくれたのか、ありがたいのかありがたくないのか。 「このねじれが時間までも回転方向に横倒しにしてしまい、過去と未来が繋がってしまいます。これをレンズ-シリング効果と呼ぶらしいです」 「その、繋がった時間のせいでスタートした時間より前に戻るってことか」 「そうです」 ハカセくんはうんうんとうなずいた。 「ポイントは二つの宇宙ひもが互いに高速で移動している、というところにあるようです」 「で、その宇宙ひもって作れるの?」 「ええっと、宇宙ひもは負のエネルギーでできているらしいんですが。長門さん、どうでしょうか」 「……擬似的なものなら、作成可能」 それまで黙って聞いていた長門が口を開いた。 「……エキゾチック物質を加速してリングを作る。それを無限の長さと見なす」 エキゾチック物質?旅に出たくなるような物質か。あれ、このくだらん突っ込みにはなぜかデジャヴを感じる。 「そう。難しいことは分かんないから、実験に取り掛かってちょうだい。機材はどんどん買っちゃっていいわ」 おいおい、そんなこと言って、十人の給料をなんとか払っている会社の台所事情をご存知か。 そんな経理担当者の心配はどこ吹く風、次の日から実験機材と称する箱がどんどん納入されてきた。 「これどこに置けばいいんだ?会議室にでも置いとくか」 「……実験室の確保を申請する」 「そうね、せっかくやるんだったらちゃんとした研究施設が欲しいわよね」 「僕が手配しましょうか。不動産関係には心当たりがあるので」 「さすが古泉くん、持つべきは不動産に詳しい取締役よね」 言っとくが、古泉の心当たりってのは実在しないことになってる闇の組織なんだぞ。 古泉の手配とやらで同じ階のお隣さんが空き室になっていた。これ絶対機関の圧力で追い出されたんだよな、かわいそうに。四階を一社独占状態にした我がSOS団の実験機材がそっちに運び込まれた。ハルヒの要望で部屋と部屋の仕切りに穴を開けてドアが取り付けられた。わざわざ廊下に出て行くのがめんどくさいらしい。 実験機材というのは見たこともない機械類だった。厚さ三センチのガラスでできた、直径三メートルの密閉された筒。上の部分は天井まで届き、試験管の底みたいに丸くなっている。長門が設計した特注品なのらしい。それから巨大な電磁石が六個あり、特殊な構造らしく自分で丁寧に銅線を巻いていた。電磁石はガラスの筒のまわりに配置された。ほかにもビーム砲やら測定機器やらがところ狭しと並んでいる。 「長門、放射能漏れとかないよな」 俺はエナメル線を巻き巻きしている長門にこっそり聞いた。 「……大丈夫。部屋全体を、」 長門はちょっと言い淀んで視点をさまよわせ、「重力子フィールドで包む」と言った。 「ならいいが、危険がないように頼む」 「……分かった」 実験室には制御装置らしいパソコン類が何台も並んでいた。壁に長テーブルをくっつけ、それに液晶モニタをずらりと並べた。何度か機材のテストをして、最初の実験がはじまった。 「十五時四十四分、試作機初号、実験開始します」 「やってちょうだい」 実験用の白衣を着込んだハルヒが腕を組んでえらそうに言った。 「……電源投入」 「始動しました」 「……真空ポンプ作動」 ブルルルと音がして、プロパンガスのボンベを横にしたようなエアコンプレッサーぽい機械が動き始めた。でかいガラスの筒の中の空気を抜いているらしい。 「……磁性体コア稼動」 「了解。電源入りました」 「……加速砲用意」 「電源入ります」 ガラスの筒には二本の腕が伸びていて、ビーム砲に繋がっている。そこからエキゾチック物質とやらを打ち込むらしい。 「……照射開始」 長門の合図でハカセくんがスイッチを回した。ガラスの筒の中で一瞬だけ青白い火花が散ったが、その後はなにも起きない。長門もハカセくんも、そのまま数分間じっとしていた。 「何が起きてるんだ?」 「……照明を落として」 長門に言われて実験室の電灯を消した。部屋の中が真っ暗になるかと思われたが、そこで起っている現象を見て俺は目をしばたたいた。ガラスの筒の中に一本の薄紫色に光るリングが浮かび上がっている。 「……美しい」 長門が呟き、俺たちはうなずいた。 「このリングを見れるだけでもすごいわね」 「これ、回っているのか」 「……そう。これがエキゾチック物質」 「きれいですね。ふつうは見えないんですが、電子をくっつけて加速しています」 ハカセくんが補足した。 「……磁界を分離。リングを分解」 長門が呟いてキーボードのテンキーを叩くと光のリングが内側と外側に別れた。さらに二本とも少し太くなった気がする。じっと見つめていると、内側のリングが外側のリングを覆うようにして動き始めた。内側のリングの半径が伸びて外側のリングを包むように回り、また内側に入る。それを繰り返す。 「二本のリングがシンクロ開始しました」 「あ、つまりこれが二本の宇宙ひもってことか」 「そうです」 なるほど。分かりかけてきた。まずエキゾチック物質が円を描いて無限の長さと同じ状態になる。その円を二本作り、内側の円が外側の円を包むようにして回る。これを繰り返せば互いに動いてることになる。あとはスピードを上げればいいだけか。 「……正解。あなたにしては分かりやすい説明」 それ俺がいつも言ってるセリフじゃん。 内側のリングはだんだんと回る速度を増し、次第に一本の太い薄紫色のドーナツのようになった。これ、円周方向にも回ってるんだよな。ということはエキゾチック物質は螺旋を描いて回ってるってことか。今日の俺はいつになく冴えてるな。 「……コアの電圧を上げて。光速の八十パーセントを目標」 「了解。現在光速の五十五パーセントです」 ハカセくんはパソコンのモニタを眺めて数値を読み上げた。リングの色がだんだんと白っぽくなり、ついには目を開けていられないくらいに輝きを増した。 「シンクロ率が四百パーセントを超えました!」 どっかで聞いたようなセリフだな。次の瞬間、プーンともピューンともつかない音がしてリングが消えた。 「すごいわ、光速を超えたのね!」 「ブレーカーが落ちただけです」 「あらっ」 「……実験失敗。契約アンペアの変更を忘れていた」 「んーっ、しょうがないわ。失敗にめげずにがんばりまっしょーい」 ハルヒがグーで天を突くように背伸びをしながら叫んだ。失敗してるときの元気のよさがこれなら、成功したときにはいったいどうなるんだろう。銀河規模の情報爆発でも起こすんじゃないのか。 「今日はいいものを見せてもらったわ。キョン、電力会社に話つけといてね」 へいへい、どうせ俺は雑用ですよ。 部屋から出ようとして腕時計を見ると五時前だった。窓の外がやたら暗いので雨でも降ってるのかと顔を出したがそうでもなさそうだ。壁にかかっている時計を見ると七時を過ぎてしまっている。腕時計が壊れてるのかと思って振ってみたがちゃんと秒針は回っているようだ。ふと気になって古泉に尋ねた。 「おい古泉、お前の時計ちゃんと七時になってるか?」 「え、今五時ごろじゃないんですか」 俺は壁の時計を指して見せた。 「あれれ変ですね。僕の時計じゃ針もデジタル表示も五時なんですが」 「……リング周辺の時空が少し歪んでいた」 「ってことは二時間くらいタイムトラベルしちまったのか」 「ちょっとした浦島太郎の気分ですね。え、どうかしましたか?」 「いや、前にも似たようなことがなかったか」 「さあ、覚えていませんが。いつごろでしょうか」 「たぶん気のせいだ。気にするな」 翌日、電力会社の人がやってきて電線とブレーカーを交換して帰った。ソフトウェアの会社でそんな大容量をなにに使うのか怪しまれないかと思ったが、電気を大量に使ってくれるのはいい客らしくホクホク喜んでいた。定額割引サービスも適用してもらったが、果たしてどれくらい節約になるのか。 「十三時二十八分、実験開始します」 「やってちょうだい」 ハルヒが腕を組んでガラスの筒に見入っていた。ところが昨日のようなリングは生まれず、ブーンと消えていくような音がしてまた照明が消えた。 「またなの?もう、電力けちってんじゃないの、このビル」 ビルというより俺たちがアンペアを使いすぎてるだけだと思うが。 そのとき、部屋の南側の窓ガラスが割れ、いくつもの人影が飛び込んできた。SWATか海軍特殊部隊かと思わせるような風体のやつらがバラバラとなだれ込んできた。数人の黒装束が周囲を見回し、背中合わせにしてフォーメーションをとった。なんだありゃ、構えているのはアサルトライフルか!? いったい何が起こっているのか、状況判断と思考がなかなか前に進まないうちに大きな音を立ててドアが開いた。ノックくらいしろよと突っ込まないところはすでに俺はパニクってたに違いない。暗がりの中、廊下から射してくる蛍光灯の光だけが眩しく目に焼きついた。 開いたドアからこれまた黒装束が数人走りこんできた。そのうちのひとりが銀行強盗ばりの声色で叫んだ。 「全員動くな」 なんのイベントなんだこりゃ、ドッキリか。 「なんなのよあんたたち!」 「ハカセくんはどいつだ」 お前ら、ハカセくんの本名を知らないで来たのか。見かけによらず間抜けだな。 「名前などどうでもいい。どいつだ」 「ぼ、僕ですが」 ハカセくんだけを残して俺たちは実験室の外に連れ出された。 「お前ら全員、両手を上げろ。抵抗すれば撃つ」 「CIA?FBI?あんたらどこの組織よ!あたしがタイムマシンを作ってることを知っての襲撃ね、こんなことをしてタダじゃすまないから」 「黙れ、お前ら動くな。両手を頭の上にあげろ」 そのうちのひとりが俺たちに銃を向けた。俺たちは互いに顔を見合わせ、両手を頭の上に乗せた。数人が駆け寄って後ろ手にし、俺たちは両手と両足をインシュロックで縛られた。朝比奈さんを見たが、若い頃のようにオロオロとはしていなかった。ただじっと黒装束メンバーのひとりを睨みつけていた。 「抵抗すれば命の保証はない」 俺は聞き覚えのある女の声に、ふと知り合いの顔が浮かんだ。 「もしかしてその声は森さんでしょう!?」 「う。わたしはそのような名前ではない」 「それからそっちの、迷彩服着て頭にバンダナ巻いてるおっさん、あんた新川さんでしょう」 「なんのことやらさっぱり分かりませんなあ」 「ってことはこの中に多丸さん兄弟もいるってわけですね」 うちの二人がビクっとした。レンジャーだかSWATだか知らないが、あんたら向いてないわ。と突っ込まれたのが気に入らなかったらしく俺の足元に弾を四発撃ちこんだ。カーペットに穴が開き、焦げくさい煙が立ち込めた。実弾じゃないか、こいつらマジか、サバゲにしちゃ気合が入りすぎてるじゃないか。 古泉を見ると自分の立場をどうしたものか決めかねているようだった。こいつは以前、機関の命令に背いても一度きりなら俺たちの味方をすると約束している。 「森さん、状況を説明してください」 「その義務はない。お前はすでに機関の人間ではない」 「そ、そうだったんですか。なぜクビになったのか教えてもらえませんか」 森さんは答えるかわりに銃口を突きつけただけだった。 「あんたたち、何が目的なのよ」ハルヒが森さんと思しき黒装束に向かって叫んだ。 「時間移動技術のデータを破壊する」 「なんの恨みがあってそんなことすんのよ!」 ひとりがAKライフルをハルヒに突きつけようとした。俺はそれを見て頭に血が登り、立ち上がってそいつに体当たりした。二、三人がバラバラと駆け寄って俺を取り押さえ、森さんと思しきやつからしこたま蹴られた。 「お前たちのせいで三十億人が死んだ。我々はその要因を取り除くために来た」 「なんの映画だそりゃ」 「映画ではない。実際の歴史だ」 あ、もしかしてこいつら未来から来たのか。 「そうだ。お前たちが開発した時間移動技術が要因で国家間の軍事力バランスが大きく崩れた。日本が第二次大戦に勝利し核保有国となった。冷戦はなく延々と紛争が続いた。陸地の六十二パーセントが放射能に汚染されている」 「第二次大戦は過去の話だろう」 「お前の頭には時間の概念がないのか」 ってことは、未来にいたやつが歴史を書き換えたってことかな。 「それは分かりますが、その格好は何なんですか。あんたらもどこぞの兵隊?」 「機関はレジスタンスとして政府と戦っている」 「なるほど。ってちょっと待て、あんたらに正しい歴史の記憶があるのはなんでだ?」 その質問には森さんは答えず、その隣にいたやつが口を開いた。 「わたしが歴史を修復したからよ」 そ、その声は朝比奈さん!っていつものメンバーじゃないか。 「もしここで時間移動技術がなくなったら、あんたたちは全員消えてしまうんじゃないのか」 「それでもかまわないわ。世界が守られるならそれくらいの犠牲は安いものよ」 まったくなにカッコつけてんですか、朝比奈さんらしくない。こめかみに手を当てて頭痛を訴えたくなるようなセリフを聞いていると、実験室から爆発音が聞こえた。ガラスが飛び散り、黒い煙をモクモクと吐き出している。ガラスの筒その他実験器具が粉みじんになっていた。ああ、俺たちの出来損ないタイムマシンが無残な姿に。 「自分たちがやったことを償うがいい」 黒装束全員の姿が徐々に透けてゆき、やがてそいつらはかき消すように消えていった。非常ベルが鳴り、スプリンクラーから大量の水が降り注いだ。 なぜかここで暗転する予感がしたのだが、そうはならなかかった。手足を縛られたまま、俺たちはずぶ濡れになった。俺は朝比奈さんに耳打ちした。 「あの、今ここにいる朝比奈さんが消えないのはなぜなんでしょうか」 「さっき消えたわたしは、たぶん別の時間線のわたしなのでしょう」 「というと?」 「時間移動理論の資料と実験機材が破壊されたことで、涼宮さんが作るタイムマシンの歴史の流れは白紙に戻ったんだと思うわ。でもわたしが持っているTPDDは消えていないので、元の流れに戻っただけ、ということかしら」 「それじゃ発案者のハルヒが生きている限り同じことを繰り返すんじゃないですか」 「そうかもしれないわ」 俺はみんなを見回した。あいつらは口やかましさに閉口したのだろう、ハルヒの口をガムテープで封じていた。 「誰か両手が効くやつはいるか」 長門が両手を上げて見せた。ハサミで全員のインシュロックを切り離してまわった。 「ぷは、まったくもう!さっさと警察呼んで」 ハルヒの顔にガムテープを剥いだ跡が残っていた。警察を呼ぶのはまずい気がする。時間移動技術を研究しているなんてことが公の機関の耳に入ったりしたら、CIAやらモサドやらがやってくるに違いない。そもそも通報が原因であいつらがやってきたのかもしれない。 俺は長門に耳打ちした。 「長門、情報操作を頼む。これが世間に知られると厄介なことになりそうだ」 分かってくれているようで、長門は黙ってうなずいた。右手を上げて詠唱をはじめた。 「有希、なにそ……」 ハルヒがなにごとか言おうとしたが、部屋の中が分子再構成の嵐に見舞われて声はかき消された。光の粒子と化した部屋の残骸が竜巻のようにらせん状に回転して広がり、元あった机やロッカー、パソコンのモニタなんかに姿を変えていった。 「……終わった」 嵐が消えるといつもより整然と整った机と事務用品が現れ、全員が自分の椅子に座っていた。服は濡れておらず一滴の水もこぼれていない。だが部屋の電気は消えたままだった。 「え、あれ。なにやってたんだっけあたし」 「ブレーカーを戻そうとしてたんじゃないのか」 「そうだっけ、あ、そうだったわね」 ハルヒは椅子の上に乗ってドアの上にあるブレーカーを戻した。部屋の明かりが元に戻った。俺は天井を指差して長門に言った。 「火災報知器は大丈夫か」 「……警備会社への通報を解除した。涼宮ハルヒの記憶も改竄した」 「そうか。ありがとよ」 お礼ならいい、と言うはずの長門が言わなかった。じっと無表情のままだ。 「ハカセくん、大丈夫か」 「ええ。やっぱり電力使いすぎですよね」 やっぱりさっきの襲撃は覚えてないようだ。 ここで少し、朝比奈さんと長門と協議しなければならない。ハルヒに聞かれては困るので三人で喫茶店に向かった。ついて来たそうにしていた古泉はハルヒの子守り役として残した。 「長門、パソコンやら実験データの類は戻ったんだよな」 「……時間を除いて、すべて実験後と同じ状態」 「ということはハルヒがタイムマシンを作ってしまう歴史の流れはそのままってことに?」 「そうなるわね。また彼らがやってくるかもしれないわ」 俺は古泉に電話をかけ、今すぐ部屋の戸締りをして二人を連れて飯でも食って来いと伝えた。古泉が僕は社長の子守りですかとブツブツ言ったのでそのとおりだと答えておいた。 「ええとつまり、まとめるとだな」 ハルヒが時間移動技術の実験をしているところへ、未来から森園生の一団が襲撃に来た。つまり近い将来タイムマシンは完成する。あいつらが言うには、その時間移動技術のせいで戦争が起ったらしい。タイムマシンを使って第二次大戦の歴史を改変したやつらがいたということだ。だが俺たちの記憶にないところをみると、もうひとりの朝比奈さんが修正を加えたようで、歴史には影響していない。 森園生一団が時間移動技術関連の情報と実験機材を破壊するとあいつらは消滅した。つまり、襲撃はなかったことになっている。 「しかしだ、長門が情報と実験機材を元に戻したのでハルヒがタイムマシンを開発してしまう可能性は残されている。ここからの未来はどうなるんだ?」 「……計算するための要素が多すぎるが、同じ展開を繰りかえす可能性は高い。比喩を用いるならなら、イタチごっこ」 「朝比奈さんの未来ではどうなるんですか」 「わたしが知っているのは、わたしがいた時間線の未来なのでこの流れの未来と必ずしも一致するわけではないの」 「じゃあここにいる朝比奈さんは、朝比奈さんのTPDDが作られる歴史しか知らないんですか」 「今のわたしはね。未来に戻れば事情も変わるでしょうけど」 「未来と連絡はつきますか」 「それが、さっきの一団がやってきたときから時間平面の並びが歪んで連絡がつかないの」 「ってことは戻れないかもしれないってことですか」 「ええ……」 朝比奈さんの表情に少しだけかげりが現れたが、いつだったか、前に朝比奈さんがTPDDを失ったときよりは落ち着いていた。それを思い出したのか、朝比奈さんは笑顔を作って言った。 「わたしは大丈夫。タイムトラベラーはいつなんどき、時空の歪みに閉じ込められてしまうかもしれないという覚悟はできているの。もし帰れなくなっても、それは任務を全うした結果だから」 時間移動ってのもたいへんだな。家族やら友達と二度と会えなくなるという、潜水艦の乗務員並みの危険性があるわけだ。 長門が妙に考え込むような表情をしていた。 「どうしたんだ?」 「……さっきの襲撃のとき、わたしの異時間同位体がいた気配がある」 「長門もいたのか」 「……不可視遮音フィールドの痕跡が残っていた。わたし以外に考えられない」 「もしかして喜緑さんとか、ほかのヒューマノイドとかじゃ?」 「正体は分からないが、それに準ずる存在。床にかかる重力から計算すると、フィールド内に三人いた」 「ということは、組み合わせとしてはわたしたちがもっとも近いわね」 「それが長門だったとしたら、なぜ接触してこなかったんだろう。黙って見てただけなのか」 「……彼らの目的は不明」 「もしかしたらわたしの、つまりわたしたちの記憶にないということじゃないかしら」 「……その可能性はある」 ええと、つまりどういうことですか。 「隠れていた三人が過去か未来かどこから来たのか分からないけれど、わたしたちの知らない何かを知っていて、それを確かめに来たんじゃないかしら」 「なるほど。……すいません、よく分かりません」 「……過去から来たとする場合、わたしたちとは異なる歴史を持っている三人ということ。未来から来たとする場合、襲撃の時間をポイントにして生まれた分岐かもしくは同じ時間線から観察に来た三人で、これからわたしたちがなにかを行わなければならないということ」 「なんだかややこしいが、俺たちがたくさんいるわけだな」 「いずれにしても、わたしたちがあの時間に戻ってなにかをしなければならないということね」 「……それは正しくはない。わたしたちは未来に干渉する必要がある」 「長門さんどういうこと?」 いつもは歴史を改変するときは過去に干渉するよな。 「……一連の事件はタイムマシンが絡んでいる。涼宮ハルヒの時間移動技術が完成するのは、今のわたしたちから見て未来。あの襲撃がどこからきたのかを見定めなければいけない」 「じゃあ彼らをたどってゆけば原因が判明するということね」 長門がスクと立ち上がった。 「……準備は、できている」 「キョンくんも来てくれるわよね」 「え、未来へですか」 駅前で待ち合わせている女の子がBMWとかメルセデスで乗り付けられてちょっとドライブに付き合わないかと誘われているようなのとはまったくレベルが違う、とんでもないお誘いだった。今まで経験した時間移動はずっと過去だった。ずっと待ち焦がれていた未来がようやく拝めるというのだ。 「連れて行ってもらえるのならどこへでも参ります」 俺はいつの頃からか時間移動がやみつきになっているようだ。あの三半規管が暴走して目が回るような感覚はなぜか忘れられない。 「……この時間線では、かなり危険な状態が予測される」 「ええ。さっきの一団を見る限り、平穏では済まされそうにないと思うわ」 俺と朝比奈さんも立ち上がった。三人は手を繋いで輪を作った。 「では行きます。目を閉じて」 「大丈夫ですよ、もう慣れましたから」 足元から重力井戸に落ちたかのように、はるか下方の一点に世界が吸い込まれてゆく。俺たちも漏斗の底に流れてゆくように円を描いて、最初はゆっくりと、徐々にスピードを上げて落ちていった。 眼下の風景に朝比奈さんは息を飲んだ。 「ここ、まさか閉鎖空間じゃないですよね」 閉鎖空間を知ってるのは少なくとも俺と古泉だけのはずだが、一面が灰色で人気のない世界にそう思わせるだけの迫力がある風景だった。 「……閉鎖空間ではない」 長門がボソリと呟いた。さすがの長門も唖然としている。目の前に広がっているのは、かつてビルだった瓦礫や、家だった屋根瓦、道路だったアスファルトの塊らしきものが山と積まれた町だった。元はビルだったらしいコンクリの塊から錆びついた鉄筋が飛び出していて、折れ曲がり具合は爆発かそれに似た衝撃によるものだと想像できた。 「場所はどこですか」 「さっきの、喫茶店と同じ地点です」 まわりを見回してみたが看板の跡すらなく、道に立っていた標識もない。土ぼこりを被っていて、かなり前からこの状態にあるのだろう。それどころかここが北口駅前の繁華街だとはとても思えなかった。 彼方から爆音が聞こえてきた。ヘリの羽根の音だ。俺は二人を促して物陰に隠れて空を見上げた。軍用ヘリらしきものが二機、東から西へと飛んでいった。 「非常にやばい時代に来てしまったな」 「うかつに誰かに話し掛けたりできないわね」 誰かに遭遇したらまず敵か味方かを問われるだろう。過去から来ましたなんてことになったらとっ捕まって暗い部屋に放り込まれるのがオチだ。 「長門、この時代のお前が味方かどうか分かるまで会わないほうがいいと思うんだが」 「……わたしもそう思う。でも互いの検知を封じるのは不可能」 願わくば、遭遇しないようにってとこだな。 「今回の時間移動が長門さんの記憶にあるとしたら、この時代の長門さんはわたしたちがここに現れることを知ってるはずじゃ……」 「……それは心配しなくてもいい。わたしの判断で記憶を禁則事項に指定することはできる」 そもそも、長門が異時間同位体と意見が食い違ったり争ったりすることはあるのだろうか。いつだったか長門が暴走したときは、時間的に若い方の長門が未来から来た長門の指示に従った。長門の双子の姉という異次元同位体のときは、どちらも主張を変えず町をまるごと破壊するほどの大喧嘩になった。 俺はあのときの二人の派手な戦いを思い出して鳥肌が立った。 「もし未来の長門が出てきてもできるだけ穏便に解決してくれ」 「……分かった」 たぶんそんなことは起らないだろうという根拠のない楽観視をしている俺だったが、もし二人の長門が意見を異にするような事態になるとしたら、それぞれの守るべきものが違う場合だけだろうと考えていた。 「朝比奈さんの上司とか仲間で、この時代の誰かと連絡取れませんか。誰か協力してくれそうな人」 「わたしの時間線とはだいぶ違うみたいだから、どうだか分からないけど。ちょっとやってみます」 朝比奈さんは数秒だけ宙に視線を浮かせた。 「この時代のわたしがいます。会ってくれるそうです」 よかった。時代と場所が変わっても、この人だけは俺の味方になってくれると信じている。 「今どこにいるんです?」 「どこかの組織の隠れ家にいるようです。方角を教えてもらったから行きましょう、こっちよ」 先導する朝比奈さんはくるりと振り向いて、末恐ろしいことをサラリと言ってのけた。 「途中に地雷があるらしいから、気をつけて」 「じ、地雷って踏んだらジャンプしてパチンコ玉が四方八方に飛び散るやつですか」 「それだけならまだいい方」 「ひぃっ」 「……大丈夫。わたしが熱光学とエックス線で見ている」 じゃ、じゃあ長門が最初で朝比奈さんが二番手で、俺が最後ってことに。情けない。 ずっと空は曇っていて、遠くまでは見渡せなかった。今が昼なのか夕方なのかさえ分からない。瓦礫の山を十五分ほど歩いたところで長門がピタリと止まった。 「……」 長門が指差した方向を見ると、ビルの残骸の上に人影があった。小柄な、見慣れたボブカットの女の子。この時代の長門がいた。三人が来るのを待っていたようだ。近寄ってみるとどこかの制服らしきものを着ている。海軍か海自か、胸のポケットの上にJMSDFとロゴがある。 「……なにが、あった」 「……時間移動技術がさまざまなグループ、国家の覇権争いの元になっている」 「……この事態になるまで放置していたのはなぜ」 「……説明する義務はない」 「長門、俺にも教えてくれないか。その制服はなんだ?どこかに雇われているのか」 このシリアスな状況でまさかミリタリヲタのコスプレではあるまい。将校らしく、階級章に星がついている。 「……現在SOS団は海軍特殊部隊の傘下にある。涼宮ハルヒ以下四名はそこで勤務している」 「海軍って海自か」 「……憲法九条改正により、正式に軍となった。内外の勢力と交戦中」 まぎらわしいので未来のほうは長門(大)、俺の長門を長門(小)と呼ぼう。俺は長門(大)に向かって言った。 「教えてくれ、お前がいながらなんでこんな事態になっちまったんだ」 「……わたしの仕事は涼宮ハルヒを観察すること。それ以上の干渉はしない」 「それはおかしいぞ。ハルヒがタイムマシンを作ることに関与したはずじゃなかったのか」 「……わたしは関与していない。涼宮ハルヒの願望により実現した。あなたたち三人は時間線を外れている」 「どういうことかしら?わたしたちは同じ時間線をたどってきたはずなんだけど」 朝比奈さんが質問した。 「……涼宮ハルヒの時間移動技術の副作用で、複数の分岐を生み出している。わたしの記憶では、あなたたちがここに来るはずはない」 長門(小)が長門(大)に向かって右手人差し指を差し出した。 「記憶の不整合点を洗い出したい。同期を求める」 「……断る」 「……なぜ」 「……分かっているはず」 長門(小)は明らかにムッとしたようだった。かつて自分が異時間同位体とのリンクを拒んだときの返答を自ら受けるとは、これも因果か。 「まあまあ、同期しなくても不整合なポイントを調べることはできる」 「……それも、そう」 二人の長門はうなずいた。 長門(大)が俺に向かって言った。 「……涼宮ハルヒに会って」 「もちろんそのつもりだ」 「……わたしたちは間違った選択はしていない。でも正しい選択だったとも言えない。それを是正できるのは、あなた」 そう、俺はこの話が始まって以来ずっとハルヒのストッパー役なのだ。なにかまずいことが起るたびに俺は尻拭いに奔走させられる。 「先にこの時代の朝比奈さんに会って事情を聞きたい。そっちのハルヒにはまだ伝えないでくれ」 「……分かった」 「この時代の俺は一緒にいるのか」 「……いる」 それを聞いて安心した。だが長門(大)の表情はいまいちよく読めなかった。 「……いつもの場所で待っている」 長門(大)はそう言って灰色の風景に紛れ込んだ。背中が小さく見えた。 【仮説3】その2へ
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翌、土曜日。 ハルヒの一存で決定された市内パトロールに意気込んで、というわけではなく、早く会っておきたいやつがいるために俺は早く家を出た。今日ばかりは妹の必殺布団はぎもなしである。一人で起きた朝ってのは爽快感に満ちあふれているもんなんだろうが、俺の心は昨日のホームルーム前から陰鬱にまみれている。 ママチャリをこぎこぎ、駅前の有料駐輪場に自転車を止めてから俺が集合場所に到着するまでには十分とかからなかった。時計は八時三十分を指している。 あたりを見回してみたが団員は誰も見あたらなかった。この時間帯に来れば俺が奢るはめにもならなさそうだが、ハルヒのことだ、屁理屈をねじ曲げて理屈にした上で俺のサイフから金を徴収するに違いない。それに、どうせ今日は俺の奢りが確定しているのだ。木曜日に宣告された。五人分、いや四人分だっけ。 「やあ、おはようございます」 俺がサイフの中身を確認していると声をかけられた。 ハッとして振り向いた。 見飽きたような微笑がある。昨日閉鎖空間で青カビ野郎とバトルしていたとは思えないほどの颯爽さをまとうそいつは、見間違いようもなく古泉一樹だった。 俺は何を言ってやろうかとしばし思い悩んでから、 「姿を見れて安心した。とりあえず、そう言っとく」 「そうですか。そう言ってくれると嬉しいですよ。僕がいることであなたが安息を感じるのだったら、僕も努力のしがいがあるというものです」 何やら思惑のありそうな笑みをたたえている。誤解しているようだったら俺は即座に今の発言を取り消すぜ。 「いいじゃないですか。人間誰しも、他人に必要とされるのは嬉しいものなんですよ。僕が思うに、本質的に孤独が好きな人間というのはこの世にはいないと思いますね」 「そういう話は佐々木とやってくれ。そんなことを言われても、俺には何とも答えようがないぜ」 古泉は苦笑して申し訳ありませんと謝罪すると、ではと言ってあさっての方向を指さした。指先からレーザーでも出ているのか? 「違いますよ。僕は平常の状態ではそんな力は持っていませんからね。僕が指さしているのは喫茶店です。長門さんが消えたことについて、僕が知っているだけをお話しようかと思いまして。立ち話も何ですからね」 * 提案通りに喫茶店に入って腰を落ち着けたところで、ハルヒは朝比奈さんと一緒に来る、と古泉は言った。 「涼宮さんがいつもの調子だと、あと十分と経たずに到着してしまいますから。申し訳ないですが朝比奈さんに足止めをお願いしました。時間稼ぎしてください、とね」 ムチャな話だ。朝比奈さんにハルヒの足止めを頼んだところで三秒ほど遅らせられるかも微妙なところだが、そこの無用なツッコミは控えておく。 「本題に入ってくれ。なぜ長門がいないんだ。冬の時みたいに世界改変があったのか?」 「いいえ」 古泉は俺の説をあっさり否定した。 「と、僕は思っているんですがね。せっかくですから段階を踏んで考えてみましょうか。たとえば、今の状況とあの時の状況を比較してみればそういう答えにたどり着けます。思い出して下さい、冬に長門さんの世界改変があったとき、その世界は元の世界と何が違いましたか?」 古泉の問いに、俺は記憶を探った。つい半年前のことがかなり昔のことに感じられる。 「そんなもんは簡単だ。まず、俺の後ろの席にハルヒじゃなくてカナダに行ったはずの朝倉がいた。そしてハルヒはお前と一緒に光陽園学院にいて、長門や朝比奈さんは何も知らない眼鏡っ娘と上級生だった。SOS団がなくて、SOS団の部室はただの文芸部室で……」 「いえ、そんなところはいいんですよ。僕が言いたいのは、あの世界の涼宮さんや長門さん、朝比奈さん、僕に不思議な力があったかどうかというところなんです」 断言してやる。なかった。 「そうでしょう?」 古泉はウーロン茶の入ったコップをカチャカチャと音を立てて振りながら、 「では今の状態と比較してみましょうか。現在、少なくとも僕や朝比奈さんには超能力者や未来人といったプロフィールが失われていません。冬に世界改変が起こったときにSOS団の団員からそういう力がなくなったことを思えば、僕たちの力がまったく何も変わっていない状態は世界改変だとは考えにくいですよ」 そんな強引な。 疑わしそうな顔をする俺に、古泉は続けた。 「もう少し推理ゲームを続けてみましょう。今度は別の観点からです。あなたは昨日ずいぶんと学校を探索なさったようですが、その時違っていたものは何でしたか? 長門さんがいたときと、いないときで違っていたものです」 「長門の机と椅子、長門の本、長門の七夕の短冊とか、そんなところだな。全部なかった」 「他には?」 「特にない。ああ、マンションの長門の部屋が空き部屋になってたか」 俺の返答を聞いて、古泉はわざとらしく笑った。 「ものすごく単純明快ですね。もうお解りになっていると思いますが、変わっているのは長門さんに関するものだけなんですよ。いえ、正確に言うのならば、地球上に存在するTFEI端末に関するものだけ、ですね。考えてみて下さい、長門さんや喜緑さんのもの以外のものは何一つとして変わってなかったのではありませんか?」 その通りである。長門に関わる記憶と長門の所有物をのぞいて、木曜日と金曜日で変わっているものは何もない。偶然にしてはできすぎだというのは俺も思っていた。 今言ったことをふまえれば、と古泉がまとめをするように述べた。 「つまり、これは世界改変で世界ごと変わってしまったのではなく、むしろ正しい世界からTFEI端末だけがきれいさっぱり消え失せてしまったというほうが考えやすいですね。それ以外のものは以前と変わっていないのは不自然ですから。ようするに、TFEI端末なんてのはこの世界に最初から存在しなかったんですよ。だから誰も長門さんのことを知らない。そういう理屈です」 俺は大きく息を吸った。そして吐いた。 世界改変ではなく、長門たちだけがこの世界から消失したのだ。長門が最初から世界にいないのだから、それに関する記憶もそれに関する物も一切ない、と。 そんなバカなと思う一方で、俺は納得していた。 古泉の言うとおりである。変わっているのは長門に関するものだけで、他におかしなところはない。まるで長門有希という存在や喜緑江美里という存在が最初からなかったかのように扱われているのが現在の状況だ。それは世界改変が起こって長門たちがいなくなったのではなく、もっと単純に、長門や他のインターフェースが何かの事情で元の世界から消えてしまったということなのではないか。筋が通った理屈ではあるが、これでは何の解決にもなっていないぜ。 何らかの事情ってのは、何なんだ。誰かが意図して長門たちを消し去ったのか。だとしたら、それは誰なんだ。いや、誰かという部分でなら大方見当はついているのだが。 「ほう、もう見当がついているんですか? 奇遇ですね、実は僕もだいたいこれではないかという予測なら立っているんですよ。そしてもっと奇遇なことに、おそらく僕が思っている人物とあなたが思っている人物は同じです。当てて見せましょう、それは周防九曜です。違いますか?」 違わん。しかし、かといって俺は驚かなかった。奴の他に心当たりなどない。 「そうですね。長門さんのようなインターフェースたちを一気に片づけることのできる存在など、他にはありえません。それに彼女たちは前々から敵対していたため、いつ侵攻が再開されてもおかしくはありませんしね。ところが、ここで疑問が浮上してきますよ。そうですね、三つですか」 古泉は顔の前で手を組んで、おもむろに言った。 「一つ目は、なぜ長門さんたちがそのような圧力に簡単にやられてしまったかということです。長門さんたちのことですから、完全敗北などというのはまずありえません。それなのに情報統合思念体製のインターフェースはほとんど何の痕跡もなく一夜にして姿を消している。それはなぜかということです。 そして二つ目の疑問ですね。それは、存在を消去するなどということが本当に周防九曜にできるかどうかということです。長門さんたちのような強大な存在を元からいなかったことにするわけですから、これは相当の情報改変能力を持っていないと不可能ですね。 さらに三つ目ですが、これはちょっと種類の違う問題です。それは、なぜ僕たちだけが普通の人間とは違う記憶を持っているのかということです。普通の人間は消えてしまったインターフェースについての記憶を持っていないらしいですが、なぜか僕たちは持っている。長門さんが世界に存在していたことを知っている。どうしてでしょうね」 「いや、一つ目の謎なら解ったぜ」 俺は思わずにやけた。そうか、そういうことだったのか。 なぜ長門たちが九曜相手にそんな簡単にやられちまったのか。聞いた瞬間ピンときたね。 まず古泉の考え方が間違っているのだ。九曜は長門を相手に真っ向勝負などしていない。真っ向勝負なら長門だって互角か、勢力的にはそれ以上だ。それでも長門や他のインターフェースは抵抗できずに消されちまった。なぜか。 部室で聞いた長門の言葉が蘇る。 ――天蓋領域が、彼らのインターフェースを地球上から退去させた。 ――天蓋領域の持つ力は情報統合思念体とほぼ互角だと判明している。退去の理由をはっきりさせないまま放っておくわけにはいかない。今、情報統合思念体が総力を挙げて天蓋領域の位置特定をしているところ。 そういうことだったのだ。やはり俺の勘は正しかった。長門は簡単にやられちまったんじゃない。敵がどこにいるか解らなくて防御できなかったのだ。九曜が行方をくらましたのもそのためだろう。自分の攻撃を見切られないために、長門たちの死角に回ったのだ。そして不意打ちのごとく奇襲を仕掛け、見事インターフェースたちの存在を消すことに成功した。 そんなところだな。 俺が話してやると、古泉は感嘆したように唸った。 「なるほど。不意打ちですか。確かに充分ありえます。まったく、考える役まで取られたら僕はどうしたらいいんでしょうかね」 「取る気はねえよ。それに俺にも二つ目と三つ目は解らん」 なんで俺らだけが正しい記憶を持っているのかとか、存在を消去するなんて芸当が九曜にできるのか。まず二つ目、存在を消去するということが九曜にできるかだな。 しかし、さすがに手がかりなしで解る問題ではない。できないんじゃねえか? 勘だけどさ。 「同感です」 意外にも古泉が乗ってきた。若干真面目っぽい口調で、 「たとえ話をしますが、朝倉涼子が長門さんと戦って敗れたときがあったでしょう。事実上はカナダに転校したことになっていますね」 その話はあまり思い出したくないのだが。朝倉と聞いただけで鳥肌が立つ。 「申し訳ありません。少しですから辛抱して下さい。ここで浮上する問題は、なぜ朝倉涼子はカナダに転校したなどと、事実をねじまげてややこしいことにしているのかです。もし長門さんが個体の存在を消す能力を持っているのだとしたら、朝倉涼子という存在を消して、そういう人間は最初からいなかったことにすればいいのです。そのほうが安全で、より確実ですしね。周りの人間の記憶にも、最初からいなかったわけですから、朝倉涼子に関することは何も残らないわけです。ちょうど今回の長門さんのようにね。しかしあの時の長門さんがそれをしなかったということは、つまり存在自体を消してしまうのは不可能だったんですよ。だから仕方なく、カナダに転校したということにしてすませたんです。無論、長門さんにできないことが周防九曜にもできないという保証はありませんが、彼女が長門さんと同程度の力を持っていることを考えればできない可能性のほうが高いですよ。どうです、解りましたか?」 …………。 ああ、まあ解ったと言えばそうなのだが、否定するだけ徹底的に否定されてもな。九曜には長門たちの存在を消せないだろうというのは理解したが、じゃあ現に長門が消えてるこの状況は何なんだよ。実は長門はどっかに隠れてるとか、そういうオチか? 「いえ、それはありません。我々の組織が世界中をくまなく調査しました。ですから長門有希という存在が消えていることは事実です。長門さんの消失に直接的または間接的に周防九曜が関わっているということも事実でしょう。しかしそれ以上は解りかねますね。それ以上を推理しようとすると、それはただの予測になってしまいます。何かヒントのようなものでもあればいいのですが……」 古泉がウーロン茶のグラスをかたむけながら俺に流し目を送ってくる。何だよその目は。 「あなたが何かヒントのようなものでも握っているのではないかと思いまして」 何だこいつ、さては知ってるんじゃないのか? 俺はせめて聞こえよがしにため息を吐いてポケットに手をつっこんだ。どうせこいつに見せるために持ってきたのだ。あるだろうと言われてあえて隠すほど俺は幼稚じゃないからな。 「ほらよ」 俺は古泉に例のコピーを手渡した。喜緑さんが書いたと思しき文書である。 古泉はにやりと笑ってコピーに目を通し、俺に出所と作者を言わせた。そのまま教えてやると、古泉は興味深そうな顔をしてあごに手を当てていたが、 「少々お借りするわけにはいきませんかね」 と言い出した。いいぜ。しかしそのパスワードは部室のパソコンのものじゃないみたいだ。起動させたところでロックがかかってるパソコンは一つもなかった。 「了解しました。鋭意努力させていただきますよ。場合によっては、二つ目の謎――周防九曜に存在抹消能力があるか――も解けるかもしれません。僕にはあなたのように涼宮さんをどうにかできる力はありませんから、僕は僕のできることをするまでです」 古泉は宝物を扱うような手つきでコピーをポケットにしまい、 「では、三つ目の謎に移りましょうか」 ふむ。 古泉が提示した三つの謎のうち最後の謎。 なぜ俺や朝比奈さんや古泉だけが、谷口や国木田とは違う記憶を持っているのか。つまり、なぜ俺たちだけが長門有希という人物が存在したことを知っているのか。 そういえば十二月に長門の世界改変があったときも俺だけが正しい記憶を持っていた。しかしあれは違う世界に俺が一人放置されたからであり、今回はどうも世界が違うわけではないらしい。元の正しい世界で条件は一般人と同じはずなのに、なぜか俺たちだけがいないはずの長門の記憶を持っている。 「いくつかの仮説が立てられますね」 古泉は言い、 「一つ目は僕たちが長門さんの近くにいたからという仮説です。長門有希という存在が消されるにともなって他の人間の記憶から長門有希という存在は抹消されたわけですが、長門さんに関する記憶をたくさん持っていた僕たちは、記憶が完全に抹消されずに痕跡が残っているという仮説です」 「それはダメだな。俺と同じくらい長門の記憶を持ってるハルヒは長門のことを完全に忘れちまってるみたいだ。昨日いろいろ話してみたが、ちっとも思い出さなかった。それに後半部分も否定させてもらうが、俺の長門に関する記憶はこれっぽっちも破損してない。痕跡なんかじゃなくてしっかり残ってるんだ」 だから世界のほうが変わっちまったんじゃないかと勘違いしたのだ。木曜日から金曜日になった時点で、俺の記憶は昨日とこれっぽっちも変わっていない。 「ううむ、では二つ目です。次の仮説は、この状態を創り出した人物が何らかの理由で僕たちの記憶だけを操作したのではないかということです。つまり長門さんを消した後に僕たちに長門さんの記憶を埋め込んだという仮説ですね。これは少し現実味があって、たとえばこういう状況下で僕たちはどういった行動を取るかなどというデータを採取するためとかいう理由も考えられます」 確かにそれはありえるかもしれん。どうせあの地球外生命体のことだから、俺たちのことは実験用モルモット程度にしか考えてないに違いない。いつか窮鼠になったとき噛んでやりたいものだが。 「あるいは」 と、古泉は重々しい表情で最後の仮説を口にした。 「これから僕たちの身に何かが起こるという可能性です。最初は僕や朝比奈さんのような能力者たちも統合思念体のインターフェースと一緒に消すつもりだったのが、何らかの事情で失敗してしまった。結果、僕たちは長門さんの記憶を持ったままこの世界にとどまることになった。しかし推理小説で真相を知ってしまった人物が殺されるように、僕たちもまた消されるのを待つ身なのかもしれません」 俺が何か言い返してやろうと模索しているとき、 「こらあーっ!」 耳が痛い黄色い叫び声が大音響でした。 同時刻に居合わせた店の客が何事かとそちらを振り返る。 ああ……。古泉が渋い顔になるのが解ったね。 客の視線を受け止めながらも傲然とこちらに向かって歩いてくるその女、周りの人間はその叫び声が自分に向けられたものでないと解ってさぞかし安堵したことだろう。ただしその中に必ず一人はどんよりしなければならない人間がいるわけで、それが俺と古泉であるのは言うまでもない。 Tシャツとデニム姿で憤然とした顔をしてこっちに歩いてくる女の横には、ワンピースにカーディガンを羽織って顔を赤らめる朝比奈さんの姿を見て取ることができる。俺を見つけると、ゴメンナサイと手を合わせた。 その朝比奈さんを従えるようにして、見物客の興味深そうな視線と下心ある視線を受け止めるそいつは、我がSOS団の団長に他ならないのだった。 * 「何でここにいたのよ」 周りの視線が痛くて非常に居心地が悪いためできれば場所を変えたいのだが、ハルヒがそんなことを聞き入れてくれるわけがなく、俺はただただ平身低頭するのみだった。 どうやら俺の予想通り、朝比奈さんのハルヒ引き留め作戦はまったく長持ちしなかったらしい。それでも時計を見ればもう九時五分なのだから、朝比奈さんにしては無理な敵相手に充分健闘したほうだろうね。 「いや、九時よりも三十分も前に来ちまったんでな。この暑い中で立ってるのも嫌だったから、一緒にいた古泉と涼ませてもらうことにしたんだ。悪かった」 当然ハルヒがそれだけで収まるわけもなく、目を三角形に吊り上げて、 「あたしたちはこの暑い中を五分も待たされてたのよ! ねえ、みくるちゃん?」 「え、ええと……あの、その……」 朝比奈さんはどうしていいか解らないらしい。いやいや俺なら構いませんよ。 「申し訳ありませんでした。副団長として失格ですね」 一方で、白々しいにも程がある言葉を平気で吐いているのは古泉であり、それにハルヒが納得顔でうんうんうなずいているのもなんかむかつく。 「古泉くんはいいのよ。働き者だし、SOS団の発展に大いに貢献してくれてるもんね。一回くらいのミスなら充分許せる範囲よ。けどキョン、あんたは一番古参のくせにいまだに平団員なの。恥ずかしくないの? もっと気を引き締めなさい」 誰に恥ずべきものか。むしろこの珍妙な団体に所属していること自体を恥じるべきなのではないかと思いながら、 「だからすまなかった。謝る。悪かった」 「口だけの謝罪なら受け取らないわ。そんな行動を伴わない謝り方じゃ全然ダメよ」 では他にどうしようがあるかと思い悩む俺にハルヒが言った。 「代償は今日のお昼ですませてあげるわ。今日のお昼、キョンの奢りだから!」 * 私服にエプロン姿の店員がアイスミルクティーを運んできてハルヒの前に置いた。他の二人は俺のサイフを気遣ってか何も注文していないのに。ハルヒ、空気を読め。 「じゃあクジ引きね。いつもみたいに二人と二人のペアで」 ハルヒはストローに口をつけると遠慮知らずに半分ほど一気飲みし、テーブルの容器から楊枝を四本取り出した。ささっと印をつけると俺たちの手元に楊枝をやり、古泉、朝比奈さん、俺の順番で楊枝を引く。最後に残った楊枝はハルヒが持った。楊枝は四本。これだけ。 瞬間、俺は目眩を感じた。 ああくそ、何だこの違和感は。 いや理由なら解っているのだ。 俺の対面にいるはずの誰かがいない。印入りの楊枝を珍しいものでも見るような目でじっと見つめている読書少女が。希薄のようで強い存在感を誇る長門が。まるで、ぽっかりと空いた底なし穴のようだ。決定的に違うのに誰も指摘せず、自分も指摘してはいけないというこのもどかしさ。長門の分を忘れるんじゃねえと叫んでやりたいのに。 「ふうーん。この組み合わせね」 ハルヒの一声で我に返った。 自分の手元にある楊枝を見ると、赤印入りだった。朝比奈さんを見ると無印の楊枝を握っていて、古泉を見ても営業スマイルを崩さないまま無印の楊枝を握っている。四人だから、ということは。 「あんたはあたしとねえ」 ハルヒが楊枝と俺を見比べて不気味に笑っている。 うむ、俺はとことん運に見放されたようだ。いや別に俺がハルヒと一緒だからとかいう意味ではなく、古泉と朝比奈さんが一緒だからという意味でだ。一応釈明しておくが。 「都合がいいじゃないですか」 隣に座っていた古泉が耳打ちしてきた。顔が近い。 「大丈夫ですよ。あのメッセージについては僕と朝比奈さんでよく検討してみます。あなたはどうぞ、涼宮さんとゆっくりなさっててください」 「よく言うぜ。俺がハルヒといてゆっくりできた経験なんて数えるほどしかねえよ」 「数えるだけあれば充分ですよ。僕からすれば、そんな涼宮さんはえらく貴重ですからね。あなたにとってどうなのかは知りませんが」 俺にとっても何も、ハルヒはいつもああなんだろ。傍若無人とか猪突猛進とか、そういう感じの四字熟語で簡単に表現できる。 「さあ。あなたなら彼女の本質を見抜けているものだとばかり思っていたのですがね」 古泉は音もなく笑い、俺はハルヒに目をやった。朝比奈さんに意味もなく抱きついてひいひい言わせている。何が本質だ。 「じゃ、みんなそういうことでいいわね。みくるちゃんも、いい?」 「え? あ、はい」 朝比奈さんはハルヒに無理やりうなずかされ、古泉はイエスマンで、俺にはもともと反対票を投じる権利がなく、よって俺は午前中の間ハルヒと街をぶらぶらする権利もとい義務を負ったのだった。ハルヒは残っていたアイスティーをきれいに飲み干して、 「そうとなったら出発ね! さあみんな、じゃんじゃん不思議を見つけてきなさい!」 俺はそんなハルヒの声をバックに聞きながら、誰も手に取る気配がない伝票へひっそりと手を伸ばした。 * 俺が会計を終えて喫茶店を出たところで朝比奈古泉ペアと別れた。 「まずは服ね」 よくよく考えてみれば、ハルヒと不思議探索を行うのはけっこう稀なことである。ハルヒのチートパワーが無意識のうちに働いているのか、まあ二月頃に八日後から朝比奈さんが来たときには俺のほうから長門に頼み込んでイカサマをやってもらったときもあったわけだが、それにしてもハルヒと二人で市内ぶらぶら歩きを共にしたのは、以外と団員の中で一番少ないかもしれない。 故に俺はハルヒが普段どのような不思議探しっぷりをするのか知らない。当の団長様である。マンホールの中に侵入してUFOの破片を探せとか人気のない神社の裏側で幽霊とツーショットを撮れとか言うのだろうか、とりあえずメジャー運動部並の肉体労働程度は強いられるものだと思っていたが、意外なことにハルヒが俺の手を引いて真っ先に向かったのは駅の近くにある総合デパートだった。 食品、衣料品がメインの大型デパートである。俺が団活動外でもたまに足を運ぶほどの超一般的な場所ということに加えて、この街でもトップ争いに加わるほどメジャーな場所である。いったいここに何があるというのか。 「服よ」 ハルヒは言ってのけ、他の物には目もくれずにエスカレーターで衣料品売場に上がっていった。俺もハルヒの大股に置いて行かれまいとしてエスカレーターに足を乗せる。 到着した先は確かに衣料品売場であった。夏が近いからか、目一杯に広がった店内には水着の類の姿も見受けられる。どうせ俺には縁のないシロモノだな。朝比奈さんか長門あたりに着せてみたい水着ならいくつかあるが。 「おいハルヒ、こんなところに不思議があるのか?」 「あるわよ」 ハルヒは自信満々に答えた。 「最初は裏路地とかマンホールの中とか探してたんだけどね、でもおかしいくらいに何も出てこなかったのよ」 当然である。 「それで閃いたわけ。不思議のほうも、最近はあたしみたいな不思議探索者に見つかるまいとして、あえてマイナーな場所じゃなくてメジャーな場所に来てるんじゃないかってね。だって、見るからに怪しそうなところにいなかったんだもん。消去法的にメジャーなこういうところにいることになるのよ」 「それだったら、不思議は普通の買い物客にも見つけられちまうんじゃないのか?」 「普通の買い物客の目は所詮一般人並よ。あたしみたいな熟練した目を持ってないと不思議なんか見つかりっこないわ」 都合のいいハルヒ的理屈である。マイナーなところにもメジャーなところにもオトモのように従わせてハルヒが身をくっつけている長門や朝比奈さん、古泉が実は不思議の塊だったと気づくのはいつだろうね。 「じゃ、こっからは別行動で。みくるちゃんとかの新しい水着も見ておきたいしね」 と言い残し、ハルヒはさっさとどこかへ消えてしまった。 あいつは何だろう、こんなところで本気で不思議が見つかるものと思っているのだろうか。 いや思ってるはずがないね。目的が服の物色であることは明らかだ。 だったらなぜ不思議探しをするなどと言って休日に俺たちを集めるのか理解できないが、まあそれでいいんだろうよ。そうでなけりゃこんなSOS団とかいうハルヒが探す不思議以上に謎な団体があるわけないし、ありもしない幻想を追い求めるのが涼宮ハルヒという女の定義だからな。いまさら朝比奈さんや古泉の肩書きが一般高校生に戻されても俺を含む全員が困惑するだけだろうし、そう考えると現状維持ってのは大切なものだと思えてくる。何の不可抗力だろうと、長門だろうが朝比奈さんだろうが、たとえ古泉だとしても、団員の誰かが突然いなくなるなんて事態になってもらっちゃ困るんだよ。誰だってそう思うだろ? * 結局さっきの衣料品売場ではボロ雑巾製造器(シャミセンのことだ)に引き裂かれたGジャンの代用品になりそうなものは見つからず、その代わり去年の夏だったか長門が恐ろしく貴重なことに私服だったときのクロスチェックのノースリーブを売っているのを見つけた。だからどうしたという話だが、俺はそこに合わせて長門の小柄な姿がそこにあるような錯覚を受けて、いやもうこれは本当にヤバイのかもしれん。精神疲労が溜まりすぎて視覚情報がぶっ飛んじまってるのだろうか。 ところで、ハルヒは終始まともな女子高生を演じ続けた。話の内容がアレだったことは否めないわけだがデートしてますよと言われればそう見えなくもない状態であり、ついでに俺にはそんな意識などノミほどもなかったことを付け加えておく。 まあ楽しかったさ。 メガネ少年を助けたときに朝比奈さんと食った地下食品売場の団子もハルヒと一緒に食べたりした。不思議探しと名付けられた暇つぶしだ。 「あら、もう時間ね」 他の店を見たりして適当にぶらぶらしているうち二時間はあっという間に過ぎ、ハルヒのその一声で俺たちはデパートの自動ドアをくぐった。 ちょっと意外だった。ハルヒもけっこう常識人並の時間の使い方を知っているものだ、と。 * デパートから出ると俺はハルヒに無意味なダッシュを強要され、それに加えて夏の日差しのが容赦なく照りつけるために駅前に着く頃には全身汗まみれになっていた。そんな状態の俺を出迎えたのはスマイルの古泉と、それに伴われて買い物袋を提げている朝比奈天使である。古泉、てめえ朝比奈さんに寄り添うんじゃねえ。 「何か不思議なものは見つかった?」 訊くハルヒに古泉は苦い顔になって、 「いえ、何も見つかりませんでした。申し訳ありません」 「あっそう」 ハルヒはずいぶんとどうでもよさそうに反応する。 「ま、やってりゃそのうち何かが出てくるわよ。今まで一年やっても出てこなかったんだから持久戦になるかもしれないけど、絶対に諦めちゃダメよ。みくるちゃんも、お茶ばっか買ってるんじゃなくてしっかり不思議を探しなさい」 「え、あ、はい」 いきなり話を振られて動揺する朝比奈さんである。その顔がいつもより若干疲れているように見えるが、それは古泉と一緒だったからという理由ではなく、未来と接続を絶たれたからなんだろうね。俺がどうあがいたところで、朝比奈さんの故郷はあっちらしいからな。 「じゃ、お昼ご飯にしましょ」 ハルヒの一声で、SOS団の面々は駅前からファーストフードへと居場所を移すことになった。俺の財産を慮ってくれたのか知らないが、安上がりの店で助かった。 昼飯を食べている途中、ハルヒは楊枝を取り出してまたチーム分けしようと言い出した。 「また二人二人のペアでいいわよね」 ナポリタンスパゲティをズズズと口に収めると、ハルヒは朝と同じように二本の楊枝に赤印をつけ、俺たちの手元に持ってくる。 「おお」 俺の引いた楊枝には赤印が入っている。そしてどうだろう、向かいに座っている朝比奈さんがぽわっとした感じで見つめているその楊枝にもしっかりと赤印が入っているではないか。当然、残りのハルヒと古泉は無印である。 何ということだ、どこぞの神様が不運の果てに漂着した俺を見かねたのだろうか。 俺が思わずにやけでもしていたのだろうか、ハルヒは朝比奈さんと俺を見比べてペリカンのような口をした。 「ふうん、あんたはみくるちゃんとね。強運なことねえ」 ハルヒは目を細めて俺を見ると、伝票を俺に叩きつけて席を立った。
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そして翌日。 結局神になれなかった俺は、朝からハルヒの苦言を雨あられと背中に浴びる覚悟を決め、登校中も土砂降りの酸性雨に見舞われたために既に辛酸をなめるような気持ちでいた。 そして下駄箱でも憂き目に合いながら教室へ辿り着き自分の席へと腰を下ろすと、ハルヒから他の意味でぎくりとさせられる言葉を掛けられることとなった。 「ねえキョン」 「……何だ? ポエムなら、スマンがまだ少ししか出来ちゃいないぞ」 嘘をついた俺に、 「それは急いで仕上げなさいよね。学校は明日までなんだから。どうしても出来ないってんなら、土曜の不思議探検までなら待ったげる」 なんて、二十段の跳び箱が十九段になった所で無茶な指示に変わりゃしないぜ。 俺は失敗が怖くて動けないといった根性はないつもりだが、派手に転ぶとわかっていて「やります」とは到底言えず、そして当然の如く「出来ません」など言えるわけもなく、「ああ、ありがとう」という自分では何がありがたいのか分からんながらも感謝の言葉で対応した。しかしハルヒが聞きたかったのは別のことだったらしく、「それじゃなくて」と続け、 「佐々木さん、元気してる?」 「……ん、ああ。してると思うぞ」 「そう」 特にどうでもいいといった感じで静まるハルヒ。 ――俺は佐々木の名を聞いて、先日の、佐々木に群がる奴らとSOS団との衝突を思い出した。 佐々木は自分自身を別の位置から見つめられる聡明さと思慮深さを兼備した女の子なのだが、過去に行って自分と話してみないかという藤原の話に乗ってしまい、あいつらと行動を共にしていた。 そうなってしまうような会話が佐々木と藤原の間で交わされたのは、いつもの喫茶店で俺が最初に佐々木たちと会合した後、藤原と佐々木の二人を残して帰ったときだった。 もし過去の俺がもっと佐々木の話を聞いていたならば、あいつは俺たちの争いに巻き込まれずに、安定した閉鎖空間が灰色に染まる程傷付いたりもしなかったのではないかと思う。 佐々木を傷つけた、あの事件。 それについて語る前に その事態を招く原因となったもう一つの事件について話しておこう。 長門がダウンしていた間、俺たちSOS団(ハルヒ除く。長門の代わりに喜緑さん含む)は、佐々木たちと喫茶店でハルヒの能力についての議論を行った。もちろん意見は対立し、平行線のままに終了したのだが。 そして後日。橘京子の組織がハルヒにちょっかいを出しやがり俺はハルヒの誤解を解くために思い出したくもない真似をやるハメとなったのだが、そのすったもんだは平穏に終了し、俺はようやくその日の夜深い眠りについた。 そして翌朝。目覚めるとそこは異空間だった。なんじゃそりゃ。 俺はすぐには現状把握が出来ず、もしかしてまだ夢の中を放浪しているのかと思ったのだが、俺の寝ぼけ眼に飛び込んできたある人物の姿によって、意識は一気に、鳴り響くアラート音とともに覚醒した。 そこにいたのは、周防九曜だった。 それだけでその場所が天蓋領域によって作られた空間であったのを認知でき、また計り知れない危機が俺にせまっているかもしれないという予感も身を焦がすほどに強く感じられた。 だがいつまで経っても周防九曜はバタつく俺を無機質な瞳で見続けるのみだった。 しばらくして俺は落ち着いてモノを考え初め、長門の部屋に最初に行ったときあいつはお茶ぐらい出したぞなんて緊張感に欠ける思考が巡っていた頃、その異空間に新たな来訪者が訪れる。 その闖入者の姿をみた俺は一瞬ああもうこれはダメかもしれんなと思ったが、意外にもそいつは俺を天蓋領域の異空間から救い出してくれた。 なぜ意外だったかと言うと、俺を解放した人物は――未来人・藤原だったからだ。 藤原はいきなりやってきたかと思うやいなや周防九曜の後頭部に美麗な皐月の花姿のバレッタを取りつけ、その後の周防九曜は、藤原の命令を聞くかのように従順と異空間の解除を実行したのだ。 そして現実世界に戻った俺は、もしかして藤原に感謝しなければならないのだろうかと戸惑っていたのだが、藤原は俺に、 「……まったく余計なことをしてくれた。これは僕の予定にはなかった。忌々しき事態だ。計画を変えなけりゃならない」 まるで万引きの被害を受けた店の側を怒るような理不尽極まりない文句をつけられたが、まさにこの言葉こそが、俺たちと藤原たちとの、ハルヒの能力を巡る抗争の戦火を切ったんだ―――。 争いの概要はこうだ。藤原は周防九曜を操ってハルヒの能力を奪わんとし、俺たちはそれを阻止すべく交戦した。 面子は喫茶店で議論を繰り広げた際の顔触れで、この戦いは位相転移した空間で行われた。古泉は超能力が有効化されて喜緑さんと共に戦線に加わり、橘京子に戦う能力はなかったので、佐々木と共に傍観者となっていた。 俺と朝比奈さんは言わずもがな見ているだけしか出来ず、佐々木たちと共に傍観していた。 暫く戦況は拮抗していたのだが……正直、SOS団側に思わしくなかっただろう。 そんな中、藤原によって自身の任務に関する独白がなされ、あいつら側の未来人の目的は、時空改変能力を周防九曜に消去させるというものであったのが判明し、それについての問答によって別理論での時間遡行法の話や、本来の計画では佐々木を過去に赴かせることによって現在を変えようとしていたという事実も浮き彫りになったわけだ。 そして藤原の話も終わっていよいよとばかりにSOS団が敗北を喫しようとした……そのときだった。急に橘京子が震駭しながら、佐々木の閉鎖空間に突如として《神獣》が現れ、閉鎖空間がたちまち拡大し始めたと俺たちに訴えてきた。 このままでは能力がどうのという騒ぎではなく世界が破綻してしまうので、俺たちはすぐさま佐々木の閉鎖空間へと向かい……そこに生まれた《神獣》を撃退した。 そして、あいつの閉鎖空間が消滅する直前、少しゴタゴタしていたときに俺と佐々木で交わされた会話があるのだが、これは少し思い出して振り返ってみようと思う。 それは、俺から佐々木に話しかけて始まった会話で………… 「……佐々木。良かったら教えてくれないか? お前がなんで、過去の自分と話そうなんて思ったのか」 割れていく空。かつての穏やかな雰囲気とは一変して灰色に染まった空間。そして《神獣》。 それの崩壊を……諦観のような、それでいて納得したような面持ちで見つめる佐々木に、俺は問いかけた。 佐々木は俺の方へと顔を向け、泣き明かした後のような切なさが映る笑顔で柔らかに答えた。 「キョン。僕はね、山月記の李微によって教導されるように、心の中に猛獣を飼っていたんだ。それがこんな形で具象化するなんて……皮肉以外の何物でもないが、おかげで感得することが出来たよ」 そう話す佐々木からは、やはり何処かいつもとは違う覇気のなさを感じられる。しかし、 「心の中の猛獣だって? それこそお前には似つかわしくないし、俺はそんなことはないと思うぞ」 佐々木は少しだけ普段を取り戻したように独特の笑いを発して、そしてまたすぐに哀愁を呈し、 「まあ、李徴ほどの人物と僕なんかを比喩するのは相応しくなかったね。僕には彼ほどの才知は備わっていない。それに僕にあったのは、愚昧な臆病心だけだったのだから」 自嘲する様な笑いを挟み、 「まさか僕の嫌悪するところの人体(にんてい)と同じものを自ら抱いていたとはね。恥じ入るよ。でもそれに気付けなかったのは、今では当然のことのように思う。全部僕のせいだ」 「何言ってる。こんな事態が起きちまったのはお前を担ぎ上げた奴等と……俺が原因だ。すまなかった」 たまらず俺が口を出すと、佐々木は「それも遠からず起因しているね」と答え、継ぐ言葉を失った俺に、 「でも違うんだ、キョン。これは僕が中学生の時から存在していたものだったんだから。気付いたのが現在なだけであってね。むしろそれに気付かせてくれた彼ら……特にキョンには感謝しているよ」 ありがとう、という佐々木の言葉に俺はいたたまれなさを感じ、そして気付いた。 「……ちょっと待ってくれ。そもそも俺の質問に答えが出てないんじゃないか? 言いたくないのならもう聞きはしないが、はぐらかさずに教えちゃくれないか? 俺だって、お前の力になりたいんだ」 俺の言葉に佐々木は、見て取れる程度に微小な悲しみを顔に浮かべ、 「……中学の頃、僕が恋愛感情は精神病の一種だという見解の話をしていたことを覚えているかい?」 忘れやしないさ。今でも同じ考えの奴が俺の身近にいるからな。 「それは涼宮さんのことかな? ……だったら、僕がこれから話す内容を彼女にも伝えてくれないか? きっと彼女にとっても有用な情報になると思う。多分、それは君にとってもね」 「……わかった。すまないな」 それを聞いた佐々木は、目をつむりながらすうっと一息ついて、 「――僕はね、恋人のような関係性にはまるで意味がないと思っていた。互いを見つめ合って、周りが見えなくなるようなものにはね。ただ、人生の伴侶のように、二人が同じものを見つめて歩いていく関係に関してはその限りではなかった。実はね、中学生の頃にキョンと肩を並べて歩いていたときに、僕はそれに似た感情を持っていたんだよ。これは正直な気持ちだ。そして、僕はその状況に満足していた。その関係を変えることなど考えもしなかった。それは恋人というものに意味はないと思っていたのもあったが、そもそも、僕はキョンの誰に対してもどんな場所であっても不偏的な人柄が気に入っていたからね。自分にも無理に変わろうという気持ちは生じなかったんだ。……そしてそのまま、僕たちは高校に入ってそれぞれ違う道を進むこととなった」 佐々木は俺の理解度を確かめるような間を置き、続けて、 「……それから一年以上が経過して、先日僕たちが久しぶりに駅で鉢合わせた瞬間、僕としてはキョンの顔を見て沸き出でる喜悦の情を禁じ得なかったんだ。でもそのときですら、僕はそれを、好意を寄せていた君に対して生物としての本能が感じさせたものだと思っていた。そして正直なところ……あの時僕は塾の時間までには暫くの間があってね。もっとキョンと昔のように話をしたかったんだ。言い訳がましく学校の憂さ等を語っていたがね。実はそうなんだ」 「じゃあ俺たちと一緒に喫茶店まで来たら良かったじゃないか。あいつらだって佐々木なら喜んで迎え入れてくれるし、茶の支払だって俺がいつも一括して担ってるから佐々木の分が増えたところで変わらん。お前が来てたなら奢らせてもらったんだがな」 俺の言葉を聞いて、佐々木はくっくっと嬉しそうな声色で笑い、 「それは勿体ないことをした。唯一の心残りだ。でも僕はあのとき涼宮さんたちを目に入れて、そんな余裕や厚かましい態度を取れる程心が平静ではなかったからね。態度には出さないように努めたが、あれで結構戸惑っていたんだよ」 「そりゃあ全く気付かなかった。でも何に戸惑う必要があったんだ?」 「……僕自身も、そのときは何故そんな動揺を抱いてしまったのか分からなかった。でもね、今なら理解できる。僕はあのときキョンは中学生の頃とそう変わっていないと思っていたが、キミと彼女たちをみて、以前とは違うものを感じたんだろう」 俺がイマイチ得心出来ないでいると、 「これはキョンには分からないかも知れない。自分で見ているものでも、他人からの視点でなければ感じ取れないものというのがある」 それが何かと言えば、と続けて、 「つまり、キョンの視点が以前と変わっていたんだ。僕はそれを感じて、今まで並んで歩いていたと思っていたキミが何処か別の場所へ行ってしまったように思い、無意識の中で寂寥とした侘しさを抱いたんだろう。だが僕の自意識はその感情を否み、それらが心底で葛藤を繰り広げていたために僕は動揺していたんだと思う」 …………………。急に不思議な静寂が広がる。俺が何事かと尋ねようとした瞬間、 「……ここまで、キョンは何か気付かないか?」 いんや。まだ良く話を聞かんことには何とも言えんし、すまんが話の内容以上のものは分からん。 「そうか。じゃあ話を続けよう」と佐々木は、 「少しだけ話を戻そうか。恋愛は精神病の一種だという見解についてだ。……現在僕が考える所の恋愛感情による病的症状というのは、万人がそう言うように、盲目という障害を発生させるものなんだ。そして、それは何も恋愛にとりつかれることによって恋人にしか目を向けなくなるということや、それによって周囲の状況を正常に認識し得なくなることだけではない」 「それ以外になんかあるのか? 俺にはまったく想像がつかないんだが」 ……このとき佐々木が浮かべた笑顔に、俺は軽くてやわらかな音を聞いた気がした。 「――僕も想像すら出来なかった。それに、僕がそれら以外のものに気付いたのは本当につい最近で、しかもこれは僕自身が実際に体験することによって認知出来たものなんだ。……質問の答えが遅くなってすまない。僕は、『それ』を過去の自分に教えてみたかったんだ。僕はそれに気付けて良かったと思っているけど、時期が遅すぎたことに対しては率直に後悔の念を隠せない。でも、そんな僕の愚考による浅劣な行動を君たちが止めてくれて、嘘偽りなく心から感謝しているよ。おかげでもっと大事なものに気付くことができたからね」 皆にはすごく迷惑をかけてしまったけど、と佐々木は微笑みながら話していたが、俺にはまだ分からない点があったのでそれを言葉に表した。 「佐々木。そのお前が気付いた『それ』っていうのは何なんだ? あと、もっと大事なものってのも」 佐々木はキョトンとして俺を見つめ、すっかり元通りになった独特の笑い声を漏らし、 「……既に九十九パーセントの部分を言ってしまっているようなものなんだがね。しかし、それは僕が今となっても、出来ればその曖昧な段階のまま終わらせたかったということだろう。すまなかった。ちゃんと言葉にしよう」 いや、謝るべきなのはいつだって俺さ。それに聞いてばっかりで申し訳ない。 すると佐々木は、 「――いや、考え方によっては、これはお互い良い方向に進めるきっかけになるかも知れないな。『それ』を明確に答えることによって、僕が抱えてる九十九パーセント答えが判明している懸案と、キミが抱える疑問に答えを出すことが出来るからね」 「……他にも悩みがあるのか?」 俺の言葉に、 「なに、悩みという程のものじゃない。あえて悩みという言葉で表現するなら……そうだな、百五十億年かけて壁にぶつかれば、一回は素通りできるんじゃないかという希望を否定しきれない僕の弱さに悩ましさを覚えるよ。だが、それもすぐに解決する。キョンの疑問の『それ』に対する答えとなる……次の僕の言葉によってね。これには、今までのように錯雑に言語を交えて紛らわせたりはしない。キョンには、そのままの言葉を受け取って欲しい」 俺が教会で神の御言葉を代弁する教皇に向けるような厳粛な態度で沈黙すると――佐々木から、俺が持つ想像力を遥かに超えた言葉が飛び出した。 「わたしね、ずっと前からキョンのことが好きだったんだよ? ……今まで自分でも気付かなかったのは、きっとわたしがその気持ちに背を向けていたからなんだと思う」 突然佐々木らしくない言葉でこれまたらしくないことを言われては、俺の天地が崩壊して意識がブッ飛ぶ事態を起こすのに何ら障害はない。 ――が、俺は体の支えを失って倒れこむなんてな真似は到底出来なかった。出来る筈がない。やる奴がいるとしたらそいつは本当のフヌケだ。 ……佐々木の瞳はしっかりと俺の眼へと向けられ、その言葉に冗談なんてものは微塵も入ってないと訴えかけていたからだ。 くっく。不意に俺の耳にそんな音が届いた。目の前にはイタズラな笑顔を見せる佐々木がいた。 「そう固まってくれるなよキョン。まあ、そうなるのも仕方がないことだけどね。今の僕の台詞は投げっぱなしであるがゆえに、キョンは何とも答えようがいんだ」 脳がオーバーフロー気味に停止していただけであった俺は未だ反応できず、 「それに、僕も何かキミからの返答を求めようとは思っていなかった……いや、本当は聞きたくなかったのかもしれないな。僕はこの期に及んでも、臆病な心に噛み付かれたままだったようだね。まったく、どうしようもないとはこのことだ。……このように、どうしても僕は心の中に飼っているものに自分では抗うことが出来ない。それを踏まえて、一つ質問してもいいかい?」 若干の思考能力を取り戻しつつ、おもむろに首肯した俺に佐々木はうなづき返した後、少しの間を置き…… 「もしキミが、先程の僕の発言に言葉以上のニュアンスを感じこちらの意思を受け取ることがあったなら、それに対してのキョンの気持ちをそのまま僕へと伝えて欲しい。恐らくそれは一言で済むだろうし、それで十分だろう。僕はそれに含有された意味を正しく受け取とれる自信がある。これは、今までの僕たちが積んできた時間と関係性を根拠にして言い切れることだ。それは君だって同じだろう? ……そして別段思うところがないのであれば、このまま続けてキョンが抱く疑問に対しての答えを出すことにするよ」 ――さて、どうする? と俺に質問を投げかける佐々木。俺は…………。 わかってる。流石に気付かなければならない。佐々木の気持ちに、言わんとしているものに。 即物的なものを佐々木は望んでいるんじゃない。それもわかる。 だが、それは『そう』なのだ。俺がそれを受け入れてしまえば、『それ』になってしまうんだ。 そして、あいつもわかってる。そうなってしまうということを。そして、俺のそれに対する返答と……、 ――この言葉が、どういった意味なのかを。 「……すまない」 キュッ、と唇をむすぶ佐々木。……それを見て、俺は眼の裏側が熱くなるのを感じた。 それは俺の意識をうろんげにし、ふと気付けば、既に佐々木は言葉をつむぎ出していた。思い返せば、「ありがとう」と聞こえていた気がする。それに、俺が返答してから佐々木が話し出すまではそう時間は空いていなかったかもしれない。 「……僕は恋愛感情というものに目を当てることをしなかった。そんなものは存在しないとさえ思っていた。しかし、それは確実に僕の中に成立していたんだ。それを認めなかったがために、僕は自分の心底に潜む猛獣、愚昧な臆病心に自身が捉われていることにさえ気付けなかった。それはつまり、僕は恋によって盲目になっていたと言えるんじゃないか? 恋愛感情を否定することが、実はその存在を肯定する一つの証明になっていたなんてね。不覚にも、僕の確証バイアスは真逆の結論を導いてしまったわけだ。……そうだな、この僕の経験則は、まるで社会主義の効率性を立証せんとし、逆に経済の破綻を導き出してしまったコルナイのそれに似ているよ」 まるでミレニアム賞問題のいずれかを解き伏せたような喜色でくっくっと笑い、 「しかもそれによって、僕にもずっと以前から恋愛感情は存在していたという事実と、それの不変性にすら確証付けるまでに至るとは思いもしなかった。これにはもう一驚を喫するどころか感嘆の意すら覚えるよ。ああ、こんな情操的な感情を抱けたのは実に久方振りな気がするな。一番近いときでは、都心に原発を誘致することによって原発の実態を国民に垣間見させるよう目論んでいた、都知事の計画案に対してだったかな」 まあこれは映画の話だがね、と無邪気に手を振りながら、 「キョンも見てみると良い。キミの価値観や世界観に対してもすべからく影響を与えてくれるだろうから。……そして、僕はいま、心から過去になんて行かなくて良かったと思えている。なぜなら、こうなることによって、僕の世界は新たな変容をむかえられたからね。もちろんそれはトランジショナルなものではなく、リアライズされたことによってのものだ」 フリスビーを手首のスナップだけで放ったような手つきを見せ、 「――さて、キミが残すところの疑問もあと一つとなった。僕としてはこのまま話を続けてもいいのだが、」 上空に広がっている亀裂が加速度的に拡大していく様を指差し、 「長らく続いた僕の閉鎖空間とやらも、そろそろ終焉を迎えるようだ。なので、どうかな? 日を改めて、またあの喫茶店に前回のメンバーで会するっていうのは。歓談が出来るかは分からないが、きっと彼等らもキョンに言っておきたいことやらがあるだろうし、僕もキョンがそうしてくれるとありがたい」 「ちょっと待ってくれ」 なんだい? っと思いのほか早い反応を見せた佐々木に、 「おまえさ、過去に行こうなんて思い立ったのも、藤原と喫茶店で二人っきりになったときに何か言われたからなんだろ? ……あのとき、二人でどんな話をしてたんだ?」 佐々木は微妙に悩ましげな表情を顔に作り、思い立ったように、 「……もう隠す必要もないだろう。うん、教えよう。まず僕が過去に行きたかった理由は先に話したように、僕に潜んでいた感情を過去の自分に気付かせたかったからなんだ。それはもちろん、只の自己満足などではなく、それによって変化するものがあったためだ。それは今ではどうしようもなくてね。僕は卑しくも、あのとき彼からそれを変えられるという話を聞いて、みずからそれを望んだんだ」 どこか悲しげにそれを話す佐々木に、 「……変えるって、この世界をか?」 佐々木はゆっくり首を左右に振って、 「僕の行動によって、君たちのSOS団がこの世界からなくなってしまうなんて知らなかった。本当にすまない。今思い返すと、自分の思慮を欠いた軽率な行動に悔やみ入るよ。取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのだから」 いや、お前が世界を変えるようなことをするなんて誰も思っちゃいないさ。 「佐々木、謝るのはナシにしよう。それは俺がすべきことだ。お前は何も気になんかしなくっていい。それにさっきの俺の言葉だってな、どうもお前が過去に行ってなにかをやるなんて信じられなかったから出ちまったんだ。気にさせてすまなかったよ」 でも、と佐々木はうつむき加減に、 「……確かに、僕が変えたものによって現在を違えてしまう予見はあったんだ。むしろそれが、僕の本当の希望だったのかな。すまな――」 俺の視線を受けて佐々木は言葉を中断し、 「……僕の過去での行動よって、変わるものとは何か? について述べよう。それは非常にシンプルで、かつ単純に意味が反転するだけのものなんだ。それに、答えは既に僕たちの今までのやり取りの中に紛れている。キョン、わかるかい?」 んー。正直に言えばサッパリわからん。……ヒントをくれないか? 「そうだね、中学生の僕たちが話していても何らおかしくはない、むしろそちらのほうが健全であろう会話の中の一文だ。……僕はもう言いたくないので、キミ自身で気付いてくれないか? おや、これもヒントになるだろうね」 暫く考えた俺であったが、佐々木がもう言いたくないこと、という言葉をそのまま考えて答えらしきものを見つけた。だが……。 「――それって、まさか……」 「わかってくれたようだね。ご名答。それだ。そして変わるのは――」 虚をつかれて戸惑っているような顔をしている俺に、 「……僕の告白に対する、キョンの返事なのさ」 正直、佐々木のこの言葉には納得しかねた。……それって藤原の嘘だったんじゃないか? 俺の佐々木に対する認識は過去を通してつい先程まで変わっちゃいなかったし、いつ言われたとして俺の意見が変わるとは……。 「ストップ。……そこまでにしてくれないか?」 佐々木から沈鬱な色で言い止められ、 「……すまん。考慮が足りなかった」 あいつの気持ちをまたもや意にかけていなかった事実に俺が自省していると、 「そういう顔をしてくれるなよキョン。僕は何もその後の言葉が聞きたくなかったわけじゃない。あのね、親友という立場の見解から言わせて貰えば、今の言葉はキョンの返事の理由としては若干の異存を残してしまう。今のキミは、もっと違った理由からあの返事を言っているはずなんだ」 お前が言うからにはそうなんだろうな。しかし、 「じゃあ、どんな理由からだと思うんだ?」 くっくっ、佐々木は事もなげに笑い、 「……それこそが、僕が最初に感じた過去のキョンとの相違点なんだ。キミは依然として気付いていないようだが、それを僕が教えてしまうのは無粋でしかない。それに言ってみたところでキョンは合点がいかないだろうし、これは己で気付くべきものだからね」 だから言わない。と、続けて、 「さて、僕にもまだ言い残したことがあるが――それもまた次の機会に回そう。それに、僕の心も今は……人並み程度には失恋の悲しみに打ち震えているんだよ? 存在しないといっていたものを失くしたことによってそう思うなんてバカげた話だがね。……だが逆に、そうであるからこそ、今の僕の悲哀は通常よりも大きいかもしれないな。それこそ、今ここで泣き崩れることだって容易に出来る程だ。しかし、僕はキミにそんなものは見せたくないし、キョンだって見たくはないだろう?」 そう言いながら揚々とした態度を取る佐々木に、俺はそうは思わないと言った。なぜなら…… 「……おまえが一人で泣いてる姿を想像するほうが、俺としては……ずっとやりきれん」 ――そっか。と、言い漏らすかのように佐々木は小さく呟き……しばらくは俺も佐々木も表情を崩さず、ただ、佐々木が何かを思っているだけのような静寂が二人の間に流れた。 「……優しいね。キョンは、いつもそうだったね」 まったく身に覚えがないことを言われたが俺は否定せず、 「ならば、それに甘えさせて貰おう。僕はここで泣かせてもらうよ。けど、やっぱり涙は見られたくないかな。そうだ、こういうのはどうだい? キョンが許すなら、キミの胸を貸し――」 ――その時、スウ、と佐々木の頬を一縷の水が伝った。 それは止め処ないようにサラサラとしたたり始め、佐々木はあわてふためくように、 「……す、すまない。こんなモノを見せるつもりはなかったんだが…………」 ひらいた手の平でそれぞれの頬をさすりながら、 「――ふ、あっあれ……? 僕は――」 「……佐々木」 ――俺は視線を横に流し佐々木へと近寄りながら、一歩手前で足を止めた。 そこにはもはや少女の泣き顔になっていた佐々木がいて、俺は、受身になった佐々木のその潤んだ瞳をしたたかに見つめ、視線を斜に落としながら一言、「すまなかった」と……俺には、これだけしか言えなかった。 佐々木は両方の手で顔を包み隠すように、ストン。と俺の体に倒れかかってきた。 胸の中でむせび泣く佐々木に、俺はその双肩に手をやる事だけしか出来ず、「――少しは、気付いてよ……」という佐々木がこぼした言葉に、ただ、俺は馬鹿野郎だったと、痛いほど……感じていた。 っと、まあ……佐々木が過去の自分と話したかった理由は、こうだったというわけだ。 そして佐々木は最後のあのとき、俺の鈍感さ加減に対して言葉を漏らしたんだと思われる。 ……だがしかし、俺はもっと別のことに対して気付いてやるべきだった。中学時代、佐々木自身も気付いていなかった……佐々木の心の中、その脆い部分に。 そこを俺が友人としてなにか助言でも出来ていたならば、あいつが自分の悩みに気付けずに、自分が悩んでいるということにすら気付いていないという状態になるのを回避出来たかも知れない。 ……しかし、後悔ばかりしているわけにもいかなければ、現在の俺と佐々木の関係は、以前よりも健康的に繋がっている。事件の詳細についても後日の喫茶店での会合でもう少し掘り下げれられているので、もう少し回想タイムを延長しようと思う。 SOS団お馴染みいつもの喫茶店、そこにいたのは、 「よ、キョン! お前恋のポエムなんか書いてんだってなぁ? ほぉー、早く見せて貰いたいもんだ!」 いや正確に言えば一文字だって書いちゃないが。ていうか谷口、いきなり声を掛けられると困るんだが、色々と。 「お前が似合わねぇツラ下げて、物思いにふけってやがるからだよ。てゆーか、なんだ、全然書けてねぇのか?」 もっと俺を見習えよ、と俺のシリアスな回想を邪魔しくさった谷口はなにやらのたまっている。 なになに? ほう。お前はポエムの麒麟児なのかもしれないってのか。谷口。五つ神童、十で天才、二十歳過ぎればただの人って言葉を知ってるか? だがまあ谷口の場合は、五つ残念、十でがっかり、二十歳過ぎたらああやっぱりって具合だろうね。 「なに言ってやがる。俺にはひがみにしか聞こえねえな とにかく、ちゃんと書いてみるこったな」 まさしくその通りである指摘をし、早くも谷口は「ま、せいぜい頑張れよ!」とスタスタと教室内を歩き去って行った。あいつはマジで俺の心配でもしに来たんだろうか? 「ちょっとキョン。あんた、まったく詩書いてないっての?」 ……そういえばハルヒが後にいたんだった。谷口、スマンがお前は余計な事態しか起こさなかったみたいだ。 が、それより……。 ――こいつ、今日はやけに大人しいな。メランコリックなのか? まさか、なんかの予兆じゃなかろうな。それは勘弁してくれ。ただでさえ俺は朝っぱらから別の不安材料も持たされてるんだから。 「どうすんのよ? タイムカプセル埋める余裕がなくなっちゃったら」 そりゃああなた、埋めないだけですよ。とは言わず、 「いつ埋めるかもう決めてるのか? あと、何処に埋めるのかも」 そうだな、俺んちはよしといた方がいい。なんせ俺の妹という自分で隠したヘソクリすら翌日に開けちまうヤツがいる。こいつは庭に俺たちが何か埋めたのを嗅ぎつけて掘り起こすどころか、タイムカプセルの中身の眠りまで覚ましちまうぜ。 「あんたが掘り起こすんじゃないの」 とハルヒ、あくまで淡々と。俺は肩をすくめつつ、 「しないね。正直ヘソクリは俺も一日しか我慢できなかったが、こればかりは勝手に掘り起こそうもんなら団長ってよりは組長みたいなヤツから俺が埋められちまう」 ……うん? 予想に反してハルヒからの反応がない。 俺の話を聞いていたのかどうか、ハルヒは頬杖をついたまま流し目で、 「……ゴールデンウイークの花見のときに、そのまま鶴屋さん家の庭に埋めようかな。あそこなら、この先もずっと残っていきそうだし。そこで作った短歌を入れるのもアリね。うん。そうしましょう」 他人の家で実行される計画案にも関わらず、今この瞬間ハルヒの中で決定されたような口振りだ。確かにそれには誰も否やはないだろうし、鶴屋さん邸が何世代にも渡って受け継がれていきながら益々の発展を遂げていくだろう予見にも疑いようは皆無だろう。だがハルヒ、そこは人の良心としてだな、まず鶴屋さんにお伺いを立てるべきなんだぞ。 「わかってるわよ、そんなの」 いやぁどうだかね。お前ほどそこら辺が怪しいヤツはいやしないし、恐らく元より備わってないだろうし。 「あんたね」ハルヒは机の方へ体を少し沈ませて、「それもこれも、詩が出来てからじゃないとダメなの。余計なもんにあたま回してないで、ちゃっちゃと書きなさいよね。花見まで出来なくなったらどうすんのよ」 それは困るなと思いながら、 「……だいだいだな、恋の詩ってのが無茶なんだ。下手したらお前、それ、下手なラブレターより始末が悪いじゃねえか。しかもだな、ハルヒよ。それを掲示板に貼り付けられちまうってんならまだしも、自ら印刷して全校生徒に配ってどうする」 ピクリ。ハルヒの頬から杖の役割を果たしていた腕が離れる。 そしてハルヒは腕を組みながら背もたれに寄りかかり居直すと、何故かその表情は数学教師が難問を寝ている生徒に問いかけて狙い撃つ際の偽悪的に作られたニヤリ顔を呈しており、かと思えばシタリ顔で教鞭を振るうかの如く右手人差し指をクルクル回し、明快な声調で、 「キョン? いい? 宛名のない恋文になんか言葉以上の意味はないのっ! そんなんじゃ、あんたはラヴソングすら歌えないわ。世界中のシンガーソングライターを敵に回すつもり? あたしはそんなくっだらない戦いは所望してないわ。どーでもいいから書くのよ! ほら、テキパキと済ませちゃいなさいよねっ!」 「……そっ、そうか?」と圧倒される俺。 ――いやはや、今までさんざ俺が呼び水を差していたのにも関わらず、コイツはなんだかよくわからん場所で元気を取り戻した。一体さっきの俺の言葉のどこに元気の素があったと言うのだろうか。それより先にもっと噛み付くところがあったじゃないか。 しかし結果オーライだ。ハルヒはどうやら鬱々としていたわけじゃなく軽度の感情の浮き沈みで意味もなくホウけていただけだったようである。そうであって欲しい。なんせ現状は団員の原稿の仕上がり位しか危惧するところはなく、他の事情によって憂鬱な色が出ているのであれば、それはそのままハルヒ以外のSOS団員(特に俺)に憂慮すべき事態が発生し東奔西走するという過程を辿ってしまうということが、今までの経験からして疑いようもないんだから。 そんな思考を巡らしながら、「てゆうかさ」と俺。「お前、なんで今回の機関誌の内容をポエムなんかにしたんだ? 単純にページ数が少なくていいからだってのか?」 今更な質問に、ハルヒはさも当たり前のことを言わんとするかのように鼻を鳴らし、 「それもあるけどね。モチロンそれだけじゃないわ。いいキョン? 詩っていうのはね、作者の人間性を計るのにはベストな創作活動なの。人としての魅力ってぇのは結局、その人物のインプットとアウトプットがどれ程のレベルで成り立っているかってことだから」 「どういうこった」 「一つのモノから、どれだけ情報を得られるのか。それをどれだけ伝えることが出来るのかってこと。詩を作る際にはこれに情報を変換する作業が加わるの。これは人間にしかない文化なのよ? そして、いかにそれらに富んでるかってのがイコールその人の魅力度数で、それが人間性の豊かさって言葉になるわけ」 「じゃあ長門はどうなる?」 「有希はあんた、寡黙で知性的な所があの子の魅力じゃない。多くを語らずとも有希の人間性は溢れ出てるの。むしろ、有希は背中でモノをありありと語ってるわね。そういうこと」 ふむ……まあ、わかる気はする。長門はアウトプットこそ微小だが、そのままハルヒの言葉通りに行動から長門らしさが顕然と現れるし、内包しているものはそれこそ計り知れない程だ。 それに、その理論を体現しているのは他ならぬハルヒ自身であろう。 世の中の事象全てを己が内にせしめんとし、コメットハンターばりの瞳で宇宙を見つめながら実際にその目の吸引力で彗星をも引き寄せそうなハルヒの求知心は本当に珍妙なエトセトラを呼び込む程であるし、こいつがアウトプットするモノは物理的概念的な意味でも途方もない。 ……って、これじゃあハルヒが魅力度トップって話になっちまうんじゃないか? 魅力的ランキング争い大本命の朝比奈さんはどうした。 俺の脳内で何故か陸上競技のビブスを着用したSOS団三人娘(ハルヒ赤、長門青、朝比奈さん黄色)が激烈なレースを繰り広げていると、 「それにね。今回の機関誌製作は、昨今のテレビ制作やミュージックシーンに対するアンチテーゼでもあるの」 それは気付かなかった。まさか、特に別条のない一学校組織の中でもおぼろな一団のポエム誌に、そんな大仰な意義が付属していたなんてさ。 ハルヒは未だ腕を組んだまま、若者がフェミレスで姿の見えない何かに対して実体のない怒りをぶつけているような感じで、 「家族と夕飯喰ってるときに流れてるテレビ位はあたしの目にも入るんだけど、なんでどの局もテンプレートに似たような番組しか作ってないの? 制作スタッフが大衆を愚鈍だと思ってるとしか思えないわっ! それに音楽だって、癒しだのなんだのばっかで逆にウンザリしちゃうってのよ。もっとあたしたちみたいに、面白さがなんたるかを突き詰めてクリエイトしていくべきね!」 その面白さの基準は全てハルヒ視点からなるものでありそれによって俺と朝比奈さんが被害を被る事が非常に多い件については、じゃあ面白くないのかという問いに対して俺はあの日キッパリと答えを、明言しているので言及しない。それには長門、朝比奈さん、そしてどうやら古泉すらも同じ答えを出すであろうから、なんら問題はないんだ。まあ……毎回事件は起こるんだが。 そして俺は音楽業界に明るくはないのだが、確かに近頃メディアで流れているインスタントなミュージックよりは親の部屋から流れてくるロカビリーでジャジーな野良猫たちの音楽や、メンタイコが好きな雄鶏が歌うロックンロールの方が心に触れるモノがある気がする。だが多分、つまびらかに調べて行けば現在もそういったミュージシャンたちは存在するんだろう。そういえば谷口がリンゴがどうだのピローがどうしただのと絶賛してたっけ。 しかしテレビについては一つ俺の考えをハルヒに示してみようと思い、実際に提言してみた。 「ハルヒ。確かにお前のその意見には俺もほとんど同調する。しかしだな、テレビに関しちゃそんな手法を取っているのは他にも原因が考えられるんだぜ」 「なによ? まさか効率性重視な商業の打算的な考えだとか、興行だからとかいったツマンナイ理由を言い出すんじゃないでしょうね」 それも言おうと思っていたのでちょっぴり悔しくなり、「そうじゃない」と負け惜しみ的に前置きして、 「つまるところ、民放のテレビってのは単なる看板でしかないんだ。制作側がどんなに新鋭的で良質な番組を作ろうが、それを見る人が少数派ならスポンサーの付き手が少ないから成り立ちにくい。言うなれば、それは砂漠のオアシスみたいなモンで、見定めることができるヤツにとっちゃあまさに楽園だが、悲しいかな人が少ない場所には看板が立ち難いし、立たなけりゃ広告宣伝料も入らないがゆえに番組は潰れちまうというわけさ。しかしだ、そんな番組は当たれば視聴率が安定して得られるし、成功例が往々にして長寿番組になるんだ。と、そうは言ってもそれは難しい。それより、魚群の中にその時々で効果的な仕掛けを放ったほうが成果としては確実に望めるだろ? でもだな、そんな打算的なツマラナイ手段を取るハメになるのは、時勢に飲み込まれている視聴者側が、鋭気溢れる制作者たちの番組に目を向けられないからというのも起因してるんだ。つまり似たようなテレビ番組が増えてるのは、我々民衆の意識の程度にも問題があるわけで――――」 と……ここまで言いかけて、俺はどこかこの状況に既視感と違和感を覚え、ハッとするようにピタリと止まった。 「どうしたの? ちゃんと最後まで言いなさいよ。気になるじゃない」 「あ、ああ。そうだな……」 俺はハルヒに余した話を言い終え、先程感じたものについて考察し、それはすぐに判明した。 ――そう。さっきの風景は、ハルヒがSOS団結成を思い立つキッカケになった一年程前の俺とハルヒの会話の風景に似ていたんだ。 そして、あの頃とは決定的に違うものがある。 それはまあ、俺とハルヒが話している姿が周囲から見てなんら不思議ではなくなったということと、俺の演説をハルヒが止めなかったこともそうだな。思えば、会話の内容がハルヒ的には死ぬほどつまらない話であったはずにも関わらずだ。 ついでに言えば今は雨が振ってるし……朝倉もいない。 だがしかし、一番変化していて、しかも一番重要な以前との違いはそんな目に見えてわかる事柄じゃないんだ。一体それは何か。 わかるだろ? ハルヒは今、この世界を心から楽しんでいる。 そしてそれは、俺だって一緒だ。もちろんSOS団のみんなだって。 でもまあ、それには気付いているつもりだった。だったんだが……。 見えているものが違う――。俺は、佐々木があのとき言っていた言葉の意味が今、何となく実感出来たような気がした。 第二章
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「ねぇ、キョン。事実婚って知ってる?」「………なんだそりゃ」「籍を入れずに結婚生活を送るってやつですか?」「そう、それ!」「ヨーロッパの方では広く普及していると聞いております」今日のハルヒは俺が部室に来たときには既にパソコンでなにやら調べていた「流石、副団長。物知りね……ねぇこれなんだか楽しそうじゃない?」ハルヒの笑顔が輝いている………いやな予感がするぜ「これやってみない?」「やってみない?って言われたって誰と誰がやるんだよ」「そんなのあたしがやらなかったら、あたしが楽しくないじゃない!」「………となりますと、相手は必然的にあなたということになりますね」「俺かよ!」「………なによ………嫌なの?」っう………目を潤ませての上目使いは反則だ!「い、嫌じゃないが………親にも聞いてみないとな。それに何処でやるかも」「それならご安心を。僕の知り合いにちょうどマンションの一室を(ry」「じゃぁ決まりね。あとはキョンの親の許可が下りるのを待つだけね!」…………やれやれ その夜「なぁ親父」「ん、なんだ?」「お願いがあるんだが」「OK!OK!許可する」「いや、まだ何も言ってないだろ………実は部活で長期合宿に行くんだが」「よし、言ってこい!かあさんには俺から話しとくよ」放任主義にも程があるだろ…………「『親の許可は下りたぞ』っと………送信」………………「『わかったわ。明日古泉くんの紹介で部屋を見に行くからそのつもりで。明後日の土曜日からは引越しよ』」 「『了解』っと」 「広くもなく狭くもない、ちょうどいい部屋ね。流石、古泉くん。やるわね」「お褒め頂くとはありがたき幸せ」あ、あれ?違和感感じているのは俺だけか?なんかさっき起きたと思ったら学校の記憶がないまま午後の住居見学になってたおーい、古泉。ちょっと話がある「えぇわかってます。恐らく涼宮さんが『早く部屋が見たい!』とでも願ったのでしょう。特に問題はありません」 そんなに楽しみだったとは………可愛いところもあるんだな「わ~お風呂が広い!」相変わらずはしゃぎっぱなしのハルヒ、いい笑顔だ古泉(の機関)に紹介された部屋というのはなかなか綺麗で2人で住むには丁度いい大きさだったやたらにサービスがいいことに家具家電の一式が最初から備え付けられていた「ふふ、結婚&引っ越し祝いだと思ってください」まだ結婚しとらんわ「『まだ』っと申しますと…………結婚式には呼んで下さいね、では」あぁ墓穴掘った…………ハルヒは顔真っ赤だし 「キョン、買物行くわよ!冷蔵庫があっても食材がないわ」冷蔵庫とか家電一式プレゼントは嬉しかったが食材が入ってないとは………古泉、抜かったな「う~寒いわ。流石にもうすぐ12月、手が凍っちゃいそう。ちょっとキョン!ぼーっとしてないで何とかしなさいよ」 「何とかって言われたって…………カイロでも買うのか?」「バカ!違うわよ。手よ、手!」いつもみたいに手首を掴むのではないく手と手を繋ぐ正直あったかい、って言うか幸せだ「事実婚者同士ならこれくらい当たり前よ」 「ねぇ何が食べたい?」「ん~ハルヒは何作ってもうまいからなぁ」「あ、ありがとう………」というわけで近所のスーパーに来ているのだが、「近所」っていうのをサッパリ忘れていた「おい!」突然後ろから肩を叩かれ、声を掛けられる。振り向くと「……親父!」「何してんだ、お前。あれ?合宿じゃなかったのか?」ピンチをチャンスに変えるんだ、俺!「えっとだな、これは」「キョン、何してるの………って誰?」「これはこれは、申し送れました。わたくし、こいつの父親をやっているものでございます」「これはこれは、ご丁寧に。わたくし、キョンの妻をやっているものでございます」「そーい!」 「とりあえず正直に言ってみろ」「実はカクカクシカジカハルハルキョンキョンなんだ」「なんだ、初めからそう言えよ。ほれ、餞別だ。結婚生活にはいろいろと出費がかさむぞ」と言い福沢氏が2名に樋口氏を1名、握らせた。なんていい父親なんだ実は必要経費として機関からいくらか貰ったんだが・・・・まぁありがたく頂くとするか「ところで何してるんだ?」「かあさんに頼まれてのお使いだ。まぁお前は俺の息子だ、どうせ尻に敷かれる」「ほっとけ」「そうだ!ちょっと2人とも待ってなさい」親父は薬局の方へ走っていったかと思うとすぐに帰ってきた「…………ハルヒちゃん、ちょっとおいで」「何?」なに2人でコソコソしてるんだ? 「とりあえず使わなくても取っておきなさい」「ちょ!いいいいいいらないわよ!!」「まぁそう言わずに。ラブラブなのは大いに結構だが息子を高校中退させるわけにはいかんからな」 「だからそんなつもりないっt………………勝手にポケットに入れるな!」 「わははは、ではご両人、お幸せに!さらば」「なんだったんだ?」「ししししししし知らないわよ!帰るわよ!!」いや、まだ何にも買ってないだろ 「そうね、ベタにカレーなんてどう?」「おぉ、いいね。俺カレー好きなんだ」「ってことは、にんじん、たまねぎ、じゃがいも、牛肉…………」店内の商品を物色するハルヒの後に続きカートを押す俺なんか、こう見ているとハルヒっていい奥さんになれそうだな「………なに見てるのよ」「お前もいい嫁に………いやなんでもないよ」「?………………変なの」「そういえば、住む気マンマンだったけど、まだ服とか持っていってなかったわね」「あぁ、そういえばそうだな」「じゃぁ1度、家に帰って部屋に再集合ね」「わかった」………………って買ったものの荷物もちは俺かよ! 「ひーひー」「案外遅かったのね」「そりゃぁ買物したものも一緒に持ってきたからな」「そう、ご苦労さん。あたしはカレー作ってるからキョンはゆっくりしてなさい」「なんか悪いな」「妻として当然よ!」ハルヒばかりにやらせるのも悪いから風呂でも掃除しとくか「これでよし!あとは煮込むだけね」おぉいい匂いだ~「あんたベタベタになってなにやってるのよ」「風呂掃除だ」「それって一緒に入りたいから?」「ん~そうかも知れんな」「別にあんたがいいなら………………」冗談だよ「ですよねー」 「お皿出して、キョン」「はいよ」「スプーン出して、キョン」「はいよ」「ご飯盛って、キョン」「はいよ」「テーブルまで運んで、キョン」「はいよ」「尻に敷かれる尻に敷かれる尻に敷かれる………」「GYAAAAAAAAAAA!!」「どうしたの?」「っは!ドリームか………」「?………………まぁいいわ、食べましょ」「「いただきまーす」」「「パク、モグモグ」」「おぉ、このトロっとした口当たり」「ビリッとくるスパイシーさ」「その中に辛さに負けない甘み」「口の中でトロケる具」「「これぞ究極のカレーじゃ!!」」「さて、バカやってるうちに食べ終わったわね」「急に冷静になったな」「それにしても、あんた食べすぎじゃない?5人前作ったはずなのに」「それだけ美味かったってことさ」「………………ありがとう」「どういたしまして」「じじじじじじじじゃぁ、キキキキキキョンは先にお風呂に入りなさい!」「何故そこでどもる」「お湯が冷めちゃうじゃない!さっさと入れ!」「うわっ、わかったわかった…………なんなんだ?」「ワクワクドキドキ」 カポーン「風呂デカ!!」これだけ大きければ2人一緒に入れるなザバー「ふぅ………………我ながらいい湯だ」「………………失礼しまーす」「どうぞどうぞ、ってうぉい!」「タオルだって巻いてるんだし気にしない気にしない」「(重点的に俺のジョンが)気にするわ!」「いいじゃない、夫婦なんだから」そういえばそうでした「………………」「ねぇ、そっち向いていい?」「(俺のジョン的に)ダメ!」「………………ケチ」「………………」「………………」「そろそろ出ない?」「お先にどうぞ」「む、なんかキョンに負けるの嫌ね………………こうなったらトコトン勝負よ!」「………………」「………………」「………………」「そ、そろそろギブアップなんじゃない?」「いいや、全然」「うー………………ブクブク」「…………?ちょ!ハルヒ、大丈夫か!」カポーン 「………………ん」「お!気が付いたか」「あれ?あたし…………」「風呂でのぼせたんだ」「そうだったの・・・・ありがとう」「礼にはおよばんよ」ダッテ、オキガエスルトキ、ハルヒノハダカミチャッタンダモン! 「とまぁ、お前が寝ている間に夜も遅くなった」「じゃぁ、もう寝ましょ」「それじゃぁお休み」「ってどこ行くのよ」「どこって、そっちのソファーに」「夫婦なんだから一緒に寝るの!」「引っ張るな引っ張るな、押し倒すな!」 「………………」「………………」「………………」「………………」「…………すー…………すー」「寝れNEEEEEEEEEEEE!!」「………………」「…………すー…………すー…………んー」寝返り打った、こっち向いた、顔が近い!「…………んー…………キョン……」夢に俺が出てるのか?「………………好き………」抱きつかれた!!「…………んー…………すー…………すー…………」ドキドキ 「ドキドキドキドキ………………」「…………すー…………すー」「ドキドキ………………」「…………すー…………すー」「………………」「…………すー…………すー」「…………ぐー…………ぐー」 「まったく、間抜けな顔して寝ちゃって」「…………ぐー…………ぐー」 「せっかく寝ぼけたフリして抱きついてあげたのに」 「…………ぐー…………ぐー」「やっぱりコレは使わなかったわね」「……ぐー……ぐー…………んーハルヒ可愛いぞ………」「……………バカ」 チュンチュン「キョン、起きろー」「………んー………………ん?」「今日は土曜日、探索の日よ」「そういえばそうだな」「さっさと準備しないと38週連続奢りよ」「勘弁してくれ」「だったら早く準備する!」 「あ、あれ?僕が最後ですか」営業スマイルが一瞬引きつった。俺が最後じゃないのがそんなに変か「今日は古泉くんの奢りね。とりあえず喫茶店に行きましょ」「おいおい、引っ張るなよ」「手を繋いでアツアツですね」「近寄りがたいですー」「…………」 「ほら、腕組むんだから腕出しなさい」「へいへい」 「「「ごちそうさま」」」 と言うわけで恒例のくじ引き「さぁ、引いた引いた!」「では」「えーっと………これ」「…………」「あたしはこっち」「余りかよ!」「で、組み合わせは?あたしは無印よ」「……印」「無印ですね」「無印ですー」「印だ」「……………浮気したら殺すわよ」「しねーよ」 「さて、どこに行く?」「…………図書館」「定番だな……そういえば近くに古本屋があるんd」「いく」「じゃぁ行くか」「いく」「………………」「………………」「………なんだ?」「腕は組まない?」「俺が死ぬがいいか?」「………ダメ」「じゃぁガマンしなさい」「………そう」「ついた、ココだ」「………」どこか嬉しそうだ。連れてきてよかった「自由に見ていい?」「欲しいのがあるなら買ってやるぞ」「そう」と言い残し店内に消えていく長門と思ったら帰ってくる長門「言い忘れた」「なんだ?」「午後の組み合わせをあなた、涼宮ハルヒ、わたしの組にする。許可を」「何かあるのか?」「ある」「ならいいんじゃないか?」「そう」と言い残し店内に(ry 『お腹減ったし集合』とハルヒからちょっと早めの集合がかかった勿論集合場所は喫茶店だし、おごりは俺じゃなく古泉だまぁおごれと言われても、おごることは出来ん。何故なら「…………ありがとう」小柄な少女に似合わない重量級の荷物。どうやって持って帰るんだ「くぁwせdrftgyふじこlp;」「消えた!何したんだ?」「部屋に転送した」「こんな町の中で……誰かに見られたら」「情報操作は得意」「さいですか」「………時間」「うわ!やばいな、急ぐか」「………」 「遅い!罰金!!」「ちょ、今日は古泉だろう」「あ、やっぱり忘れませんでしたか」「当然だ」「さ、お腹すいちゃったし入りましょ」「はーい」「行きますか」「………」「俺はおごらないからな、おごらないからな!」「あたしは大皿サンドイッチとチーズカツカレーとアイスティー」「こっちのページのこっからここまでと、こっちのページのこっからここまで」「えーっとぉ、ハンバーグセットの飲み物はコーヒーで」「俺はグラタンとミートスパゲッティとコーラな」「皆さん容赦ありませんね……僕は和風ランチセットで」「あ!デザート忘れた」「迂闊」「………勘弁してください」 「さ、午後のくじ引きするわよ。今度はキョンが一番ね」「おぅ!どれにするかな……」って、出来レースだったわ「これにすっか」「………」「えーっとぉ、これ」「僕は余りで結構です」「じゃぁ、あたしはこっち!」全員引き終わったが俺は組み合わせはわかってるし「俺は、無印か」「印です」「印ですぅ」「あたしは無印ね」「無印」「この組み合わせね。早速いきましょ。あ、古泉くん。伝票忘れてるわよ」「やっぱり忘れませんね」「潔く払っとけ」「たまには、ですね」 「9720円です」「彼はよく財布が持ちますね……やれやれ」 「それでは夕方頃に落ち合いましょう」「そうね。じゃぁ出発!」 「さて、キョンどこ行く?」「んー……長門はなんかあるか?」「ある」「有希が行きたい所あるなんて珍しいわね。どこ?」「………こっち」「長門、指差しながらこっちじゃわからんぞ」「こっち」「おいおい、引っ張るな」「あぁ!何、手繋いでるのよ」「だからって腕を組むな」「………わたしも」「お前もか!」「いいじゃない、両手に花で」「……………」やれやれ 「ついた」「・・・・ここ、お前の家だぞ」「ここにつれてきたかったの?」「そう」「で、何か話でもあるの?」「待ってて」と言うと、俺が冬眠していた奥の部屋に入っていって誰かを連れてきた「……長門が2人?!」「ちょっと有希。誰よ、その子!」「………孫?」「「孫?!」」 「有希、どっから拾ってきたの?」「拾ってきてない」「長門、美味しくないと思うぞ」「食べない」長門が抱っこしてる子は長門本人にそっくりだただ違うのは「……だぁ」どう見ても赤ん坊です。本当にありがとうございました「で、誰なんだ?」「説明すると長い」「知りたいわ」「………父方の叔父の娘の婿の姉の友人の兄の妹の朝倉は俺の嫁の他人の伯父の子」「つまり、遠い親戚ってことか?」「そういうこと」「なんでまた預かったの?」「この子の両親が法事」「いつまで?」「明日、日曜日の夜まで」「……で、この子がどうかしたのか?」「預かってほしい」「「へ?」」「今日の夜から両親に会いに外国に行く」「急だな」「急ね」「急」「いつ帰ってくるの?」「明日、日曜日の夜」「そぉ、じゃあ預かるわ」「長門、いいのか?こんな育児のいの字も知らないやつに預けて」「いい。むしろ適切」「まぁお前がいいって言うなら」 「たかいたかーい」「おんぎゃぁぁぁぁぁ」 「いや、前言撤回。やめとけ」「………」 「ひくいひくーい」「きゃっきゃっ」 「………まぁなんとかなるか」「なる」ハルヒが赤ちゃんに夢中になってる隙に聞いとくか「で、真相は?」「あれはわたしのバックアップ」「まぁなんとなくはわかってた。で用事とは?」「この個体の大幅なバージョンアップが必要。その間、機能が一時的に停止するため代わりが必要」 「それがあの子か……名前は?」「………まだない」「ねー有希。この子の名前は?」またタイミングの悪いときに「………」困ると俺を見つめるなよ「えぇっと…ゆ……有美?………そう、有美だよな」「……そう、有美」「へぇー有美かぁ、可愛いわね。そーれ、ひくいひくーい」「きゃっきゃっ」「……それと」「まだ何かあるのか?」「涼宮ハルヒが望んだことでもある」「どういうことだ?」「涼宮ハルヒはあなたとの子供を欲しいと思った。でも行為無しに子供が生まれれば涼宮ハルヒが自身の能力に気が付く可能性もある」 「こ、行為って…」「それに、あなたにも迷惑がかかる」「迷惑?」「何度シミュレーションしても高校生で子供が出来ると将来生活に困ることになる」「そっか。ありがとな」「……いい」 「気に入った!この子もらってくわね」「どうぞ」「いかんいかん、ちゃんと返しなさい」「わかってるわよ。日曜の夜までね!じゃぁ預かっていくわ」「よろしく」「じゃぁね、有希」「おじゃましました」「だぁ」「………」 「……なんか忘れてないか?」「有美ちゃん可愛いー」「………まいっか」 「あれぇ?涼宮さんたち遅いですねぇ」「来ませんね……忘れらてませんか?」 「さー有美ちゃん、ここが新しいお家ですよー」2人で住むのに充分な広さの家なんだ。1人、しかも赤ちゃんが増えたくらいじゃ変わらん「ひーひー」何をひーひー言ってるかって?荷物持ちだよ赤ちゃんに必要なものとして粉ミルクとかオムツとか着替えとかを長門に大量に持たされたからな 「でもほ乳瓶は2、3本あれば充分だ。20本もいらんだろ」「大は小を兼ねるのよ。ほーら、ひくいひくーい」「きゃっきゃっ」「あと、1日預かるのに粉ミルク20キロって」「だからー大は小を(ry」「……おんぎゃーおぎゃー」「あれ?泣き出したわ……どうして?」「どうしてって……オムツ交換か?」「……オムツしめってないわよ」「それじゃお腹がすいたんだろ」「ならミルク作ってくるわ」「お前、粉ミルクのやりかたわかるのか?」「それなら大丈夫!有希にこの本を借りたわ」「それは伝説の育児雑誌…… た ま ぴ よ !」長門の読書傾向もよくわからんな 「えぇっと……人肌に冷ますのね」 「んぐんぐ……げぷ」「はい、ごちそうさまー。よく飲んだわね」「いや、7本分とか飲みすぎだろ」「有希の家系って大食いなのかしら」「粉ミルク20キロも肯けるな」 「……おぎゃー」「オムツかしら?……しめってないわ」「もうお腹空いたとか言わないよな」「なぁハルヒ……俺たちもお腹空かないか?」「そういえば、もうこんな時間ね。買物行きましょ」「有美ちゃん連れて行くよな?ベビーカーベビーカーっと」「外は寒いわよね……上着上着っと」「……だぁ」「準備よし!キョン、行こ」「戸締り戸締りっと、よし行くか」「あぅー」「今日は何にするんだ?」「んーそうね……何か食べたいものとかある?」「そうだな……肉じゃがなんてどうだ?」「じゃがぁ」「じゃぁ肉じゃがで決定!」「ってい!」「…なんか有美ってよく喋るわね」「1歳にもなってれば、これぐらいじゃないか?」 「さて、肉じゃがなら、ジャガイモににんじん、しらたき…」「おい!」後ろから声掛けられたけど……デジャブが 「…やっぱり親父か」「あら、おじ様。こんばんは」「やぁハルヒちゃん。また会ったね」「今日もお使いか?」「いや、この時間帯にブラブラしてれば会えるかなと思って」「ストーカーだな」「ストーカーね」「はっはっは!間違いないね…ところでハルヒちゃん」「なに?」「おしさんの忠告は聞いてもらえなかったみたいだね」「忠告?なんかされてたのか?」「心当たりはないわ」「だってその子、お前たちの子だろ?」「あんたの親父って相当バカね」「面目ない」「じゃぁ誰の子なんだ?」「友達の親戚の子を預かってるだけだ」「そうだったのか。てっきりおじさんのプレゼント使わずに」「わーわーわー!!」「……なに騒いでるんだ、お前は」「なななななななんでもないわよ!こんなバカ親父ほっといてい行きましょ」「人の親をバカ呼ばわりするとは流石ハルヒだな」「じゃぁな、元気でやれよー、元気すぎて寝不足になるなよー」 「何か言ってるぞ……」「ほっときなさい!」 「うー寒かった」「12月の頭でこんなに寒かったら冬休みには凍死しちゃうわね」「凍死は言い過ぎだ。でもたまらんな」「やっぱり冬合宿はハワイとかグアム?」「ちょっと待った。そんな軍資金ないぞ」「大丈夫よ!古泉くんに言えば「ちょうど親戚にハワイに別荘を(ry」なんでことになるわ」しっかり古泉の使い方をわきまえていやがる「遠出もいいが鍋パーティーの方が俺は好きだな」「確かにあったまるもんねぇ……」「「「ぐぅー」」」「鍋の話したら余計と腹減ったな…」「そうね、急いで支度するわ」「じゃぁ俺は有美ちゃんの相手と風呂掃除でもしてるか」「…………だぁ」 「「ごちそうさま」」「さて、あたしは片付けしてるからキョンは有美ちゃんとお風呂はいちゃって」結構ハルヒってテキパキしてて働き者なんだな。専業主婦にむいてるな「じゃぁお先に………って、どうせまた入ってくるんだろ?」「あ、バレました?」「ダメって言っても……入ってくるんだろうな」「………えへへ」……やれやれ カポーン 「「いいお湯だったー」」「ちょっと早いけど、もう寝ましょ」「そうだな。今日はいろいろあって疲れた………」「……………くー……くー」「あら、有美ちゃんも疲れて寝ちゃってる……可愛い寝顔」「……………ぐー……ぐー」「こっちも寝ちゃって……間抜けな寝顔………この隙に隠して買ったプリンでも」「そうはいかんざき!」「…………起きてたの。しょうがないわね、半分こよ」「だぁ」「いや、三分こだ」「有美ちゃんまで……」 「今度こそ寝るわよ!」「寝るのに意気込む奴があるか」「……………くー……くー」「ねぇ、有美ちゃんも一緒に寝ない?」「押しつぶさないか?」「そんな心配いらないわよ!寝相いいもん…あたしね、川の字になって寝るのに憧れてるの」「ほぅ……ハルヒにしては可愛い意見だな」「あ!今、馬鹿にしたでしょ」「しとらん。褒めたんだ」「そうね、馬鹿にしたって言うよりからかったって言った方が正しいかしら」「もっと素直に受け取っ」「……………くー……んー…うるさい……」 「「しゃべった!?」」 チュンチュン「………キョン、キョン!」「…………んー…………朝か……どうした、ハルヒ。慌てて」「なんかね、有美ちゃんの様子が変なのよ」「変?」ベットで寝ている有美ちゃんの顔は真っ赤だったおでこに手を当てると「……………こりゃあ、熱があるな。風邪ひいたか?」「ね、熱!?どうしよーどうしよー」「おいおい、こんな時に母親代わりがうろたえてどうする」「…そ、そうよね。まずは暖かくしなきゃ。毛布毛布」長門のバックアップが熱か……何か起きてなければいいが「大丈夫」「うぉい、しゃべれたんですか?」「なお、これは事前にプログラムされた音声のため、期待する返答は得られない」なるほど。この熱も長門が仕込んだことか「涼宮ハルヒが「子育てするのは大変。まだ早い」と思えば作戦成功。説明終り。頑張って」説明終りって…………「……だぁ」あ、元に戻った 「とりあえず暖かくしてやれ」「毛布をかけたわ。薬は?」「まだ赤ちゃんだから、下手に飲ませない方がいいぞ」「病院行く?」「ん~高熱ってわけでもないから、しばらくは様子見だな」「それじゃぁそれじゃぁ」「ハルヒ、少しは落ち着けって」「……う、うん」 「熱も下がって、だいぶ楽そうね」ハルヒの(慌てふためく)看病もあって夜には熱も下がったと言っても確かに看病したのはハルヒだが、いろいろ教えてやったのは俺だ妹のとき、母親がやっていたのを思い出しただけの知識だったけどな「やっぱり、あたしに子育てなんてまだまだ早かったのね」はい、作戦通り。この機会に長門を参謀長に任命してやるべきだね「そういえば、もうすぐ長門が迎えに来るな」「そういえばそうね……お別れか、淋しいわね」ピンポーン「噂をすれば、ね。はーい」「おじゃまします」「さ、あがってあがって」「おう、長門。どうだった」「…………おみやげ」「「何コレ?」」「………トーテムポール」「有希の両親ってアボリジニだったのね。知らなかったわ」そんなわけあるか 「お世話になりました」「有美ちゃん、またね」「………ばぁ」「…………また、明日学校で」「有希も、じゃあね」「じゃあな、長門」「…………………」 「行っちゃった。1日なんてあっという間だったわね」「そうだな…もうちょっと一緒にいたかったな」なんかめまいがする……あぁ看病に必死で1日中何も食べてなかったからな「ねぇキョン…………キョン?」あ、あれ?世界が回るー「ちょっとキョン、どうしたの!………わ!すごい熱じゃない」グルグルだー魔方陣グルグルだー「もしもし、おじ様?ちょっとキョンが大変なのよ。うん、うん。そう、迎えに来て」マッワーレマッワーレ 昨日は親父が迎えに来て家までつれて帰ってくれたらしい俺が熱でダウンしたためプチ結婚生活はハルヒ曰く、終わったらしい………もう少しだけ続けたかったがな一夜明けて、今日は月曜日起きてみれば昨日は何事もなかったかのように熱は引いていた一応ハルヒにも学校に行く旨をメールしたところ「心配したのよ!」などと嬉しい電話がかかってきたのは内緒だ さて一日の半分が過ぎ放課後今日もいつものように部室に足を運べば朝比奈さんがお茶をいれ、長門が本を読み、古泉がボードゲームの相手が来るのを待っていた いつもと違っていたのはハルヒがパソコンをいじっていなかった何読んでるんだか………雑誌……………………ゼクシー?「ねぇ、キョン。結婚って知ってる?」「それぐらいなら俺だって知ってるぞ」「そりゃそうよねー」ハルヒの笑顔が眩しい……また嫌な予感が「してみない?」「してみない?って言われたって誰と誰がするんだよ」「そんなのあたしがしなかったら、あたしが楽しくないじゃない!」「………となりますと、相手は必然的にあなたということになりますね」「俺かよ!」「………なによ………嫌なの?」っう………目を潤ませての上目使いは反則だ!「い、嫌じゃないが………だってそれって普通、付き合ってる男女がするもんだろ?」 「「えぇ!付き合ってないんですか!?」」「……………へたれ」 「いや誰も付き合ってるなんて宣言してないだろ。それにへたれって………」「わかったわ!!」「何がだ」「付き合えばいいのよ!」「誰と誰が」「あたしとキョンよ!」「はぁ?唐突過ぎるぞ」「そうと決まったらデートよデート!さ、行くわよ」「引っ張るな引っ張るな!首が首が…………………………」 「行っちゃいましたね」「それにしても付き合っていなかったとは、同棲生活はなんだったんでしょう」「………………ヨソウガイデス」 おわり
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第七章 俺たちは30分ほどで学校に着いた。 そしてやっぱり神人が暴れていて校舎もめちゃくちゃだったし、校庭には神人に投げ飛ばされたと見られる校舎の残骸が投げ捨てられていてこの世の風景とは思えないようだった。 ハルヒはもうどうしていいのかわからないようにこう言った。 「ねえ、キョン。いったい学校に来てどうするつもりなの?」 「わからん。とりあえず校庭のど真ん中に行こうと思う。」 ど真ん中とはお察しの通り俺とハルヒが昔キスをした場所だ。 そこに着けば恐らく何らかのアクションが起きるはずなのだ、そうでなければあの未来人や朝比奈さんが止めるはずである。 俺はハルヒを半分無理やりど真ん中に連れて行った。 そのとき、ポケットに入っていた金属棒が金色に柱のように光りだし、ハルヒと俺を光の中に入れた。何がどうなってるんだ。 俺は慌ててポケットから金属棒を取り出した。 これでハルヒが普通の人間に戻ったのか? もちろんそんなわけは無く、その金属棒にひびが入った。 ピキピキ…割れていく。 中から茶色い棒が出てきた。 俺の嫌な予感は的中し、金属棒の中からポッ○ーが… やはりそうか。 ポッ○ーゲームか、それでキスしろってのか。 ハルヒは察したのか俺からポッ○ーを奪い取り口に加えて目を閉じた。 俺も目をつむりポッ○ーをくわえたそのとき、前のときのような光が世界を包み俺たちを元の世界に返した。 たまたまグラウンドはどの部活も使用してはいなかった。 あれ?朝比奈さんやら古泉やら長門やらはどこに行ったんだ? 閉鎖空間に閉じ込められたのか?だとしたら神人が全部消滅するまで空間は消滅しないはずである。 だとしたら朝比奈さんたちはどうなる。 いやハルヒの能力が消えたのだから閉鎖空間も消滅したのか?古泉は何も言ってはいなかった。 その時、後ろで俺を呼ぶ声がした。 「キョン君!」 朝比奈さんである。あの未来人と(小)方もいる、気絶したまま(大)にかつがれてるが…。 「朝比奈さんたち、どうしてここに?」 「古泉君に言われたんです。学校に向かってくださいと。これも規定事項ですし。」 「そうですか。」 この時ハルヒがあることに気付いた。 「有希は?」 そうだ長門は?朝倉と交戦中のはずのやつはどこに言ったんだ。 その問いには朝比奈さんが答えた。 「長門さんはあと1分ほどでここに現れるはずです。朝倉さんって人を倒して。」 よかった。 じゃあ古泉はどうなったんだ。 まさかあのとんでも空間に閉じ込められたままなのか? 長門がやってきた、古泉の事を聞いてみる。 「古泉一樹は閉鎖空間に残り、自爆して全て倒すつもり。」 自爆?自爆ってあれか?ボーンってなって死んじまうあれか? 「そう。」 古泉はどうなるんだ。 「死ぬ。」 どうにかならないのか。 「ならない。そうしなければ世界が滅ぶ。古泉一樹は世界を守るために死を選んだ。」 くそっ、俺の許可なしで死にやがって。 ハルヒは悲しい顔で「私のせいよ、私が転校生が来て欲しいなんて思ったから。だから古泉君は…」 落ち着けハルヒ。お前は何も悪くないし古泉のことは悲しいが今はこの状況を何とかすることが先決だ。俺たちを助けてくれた古泉のためにもな。 長門。朝倉はどうなった。 長門はいつぞやのカマドウマのとき同様、校門を指を刺した。 「すぐそこ。すぐ倒す。もう余裕は無いはず。」 その直後、校門から高速で何かが走ってきた。勿論。朝倉である。 朝倉は長門めがけて突っ込んできた。 不謹慎かもしれんがターゲットが長門でよかった。 ターゲットが俺なら一瞬でことは終わっていたからな。 長門は校庭のど真ん中で戦闘をおっぱじめた。 轟音が鳴り響く。 轟音で朝比奈さんが目を覚ました。 「ふえ?ここどこですか?あれ?この人私にそっくり。誰なんですか?そっちの男の人も。古泉君はどこいったんですか?」 なんというか、どっから説明していいのか。 とりあえずここで目を覚ますのは朝比奈さん(大)にとって来てい事項なんだろうか。朝比奈さん(大)に目配せしてみる。 朝比奈さん(大)が頷いた。 俺はいまいち状況を理解できていない朝比奈さんに説明した。 「この人は今の朝比奈さんよりも未来から来た朝比奈さんです。恐らく今まで朝比奈さんに命令を出してたのもこの人です。」 「え?そんな、まさか。」やっぱりと言うかなんと言うか、やはり混乱した。一応孤島のときのこともあるので古泉のことは伏せておいた。 朝比奈さん(大)が口を開く「そうです、私は未来のあなたです、いろいろな指令をいつも出していたのも私です。それからキョン君、この騒動が終わったらこの子にこの子がするべきことを全て教えてあげてください。」 「え?わかりました。」どういう意味だろう。七夕のときや一週間後の朝比奈さんが来たときの手紙のことを教えてあげればいいのだろうか。 長門が交戦中にも関わらずこっちを向いて叫んだ。「ダメッ!!」 すると「確かに頼みましたよ。」といって朝比奈さんの後ろで盾になるように大の字になった。 その瞬間である。鉄砲か何か、もしかしたら光線銃のようなものかも知れない。 一線。 俺の盾となってくれた朝比奈さんは倒れた。飛んできたであろう方向からは何も見えない。 血まみれになって倒れた朝比奈さん(大)を支えてあげる。「これも規定事項ですから…」 そう言って朝比奈さんは目を閉じた。 俺はハルヒに叫んだ。「朝比奈さんに見せるな!!!」 ハルヒは急いで朝比奈さんに抱きつき視界をふさぐ。 だが何もかも遅い。朝比奈さんは泣きじゃくり倒れこんでしまった。 ここで突っ立って傍観していた未来の俺が地団駄を踏み口を開いた。 「まさか!クソっ!それで未来を守ったのか。クソっ!」 そうか。朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで現在と未来がつながったのか。 それなら俺と未来人の時でも同じことが言えるのだが恐らくハルヒが生み出した不安定な未来なので朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで上書きされたのか。 恐らくこの未来人の規定ではここで朝比奈さんが死に、朝比奈さん(大)の存在に矛盾を出すためだったのであろう。 と言うことは未来人戦はこちらの勝利である。大きな犠牲を払ったが。 とち狂ったように未来人が言った。「もうお前ら全員殺してやる。」 おいおい未来の俺よ。なに言ってやがんだ。 その時、突然空が無数の点により暗くなった。 なんだありゃ。いろいろありすぎてわけがわからん。 第八章
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涼宮ハルヒの出会い 『アイツノソンザイ』プロローグ 私はただの人間だった………… そう自覚してから何年がたったのかしら? もう3年もたったのね… 明日は入学式か~ 『…つまんない』 平凡な入学式、ホントつっまんない そしてこのクラスもホント見るからに平凡、なんでなの? なんで私だけ… そんなこと考えてるうちに自己紹介とかいう平凡な行為の時間になったらしい たんたんと終わっていく、前の奴の自己紹介なんて頭に入ってなかった 別に目立ちたいとかじゃない、けど気がついたら私はこういっていた 『東中学出身、涼宮ハルヒ』 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者 がいたら、あたしのところに来なさい、以上』 涼宮ハルヒの出会い 『アイツノソンザイ』エピローグ02 別にどう思われてもいい、でももしかしたら、って思うと… だからって別に後悔なんかしてない、平凡なことはいやなの! 数日後、前の席の奴に話しかけられた 「しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」 やっぱりね…そうだよね、普通に考えたら誰でもそうだよね… わかってた、私は何度も自分に言い聞かせた だからかな、冷静に対応もできなかった、ただただ返事をしただけで… でもその後なのよね、なんかこいつは違うな~って思えたの 髪型に気がついたときはって思ったし、それに話も面白いのよ 合わせてくれるっていうのかしら?でも今までと違う感じがした すごく私は面白かった、それからSOS団を作ったのはすぐだったわね 終 第1章
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涼宮ハルヒの憂鬱 キョン 涼宮ハルヒ 長門有希通常 消失長門 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝倉涼子 喜緑江美里 キョンの妹 森さん 新川さん 草案 ゲームオリジナルキャラクター 楽曲主題歌 挿入歌 キャラクターソング コメント 谷川流氏によるライトノベル作品であり、漫画・アニメといったメディアミックスも盛んである。 『アドバンスジェネレーション』第140話「コダックの憂鬱!」というサブタイトルがあるが関係はない。 キョン ヘラクロス イーブイ:性格などが、進化系のブラッキー向けになっている。 ポリゴンZ:覚醒キョンなら。 ピカチュウ:イメージとかなら。 オノノクス:「ポケモン+ノブナガの野望」に登場するキヨマサとの声優繋がり。 ピチューorポリゴンorキバゴor色違いのダンバル:「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」を意識するなら。 イワーク:「ポケットモンスター THE ORIGIN」に登場したタケシとの声優繋がり。 ヤレユータン:「やれやれ」が口癖なので。 クレッフィ:フェアリータイプで統一するなら。 色違いのメタグロス:600族で統一するなら。 マナフィ:幻のポケモンで統一するなら。 技:きりふだ(ジョーカー的存在)/バトンタッチ(無理なときは他の団員に素直に任せる)/ねがいごと(平和を望み続ける)/からげんき(いつも疲労困憊) 特性:てきおうりょく(イーブイから) 性別 ♂ 性格 しんちょう 努力値 HP252防御128特防128 涼宮ハルヒ ダーテングorグラエナorゲンガーorムシャーナorグレイシアorキリキザンorズルズキン 色違いのマニューラ:図鑑説明による、4・5人による団体行動と鋭い目がハルヒっぽい。 チェリム:2010年度の世界大会ジュニアの部での、優勝者のチェリムのNNから。 タネボーorポチエナorゴースor色違いのニューラorチェリンボorムンナorコマタナorズルッグ:「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」を意識するなら。 フラエッテ(あかいろのはな):フェアリータイプで統一するなら。 ラティアス:600族で統一するなら。 ジラーチorダークライorアルセウス:幻のポケモンで統一するなら。 技:にらみつける(キョンに元気エネルギー注入)/ダメおし/わるだくみ/ふくろだたき/ねむる(天体観測の際にみくると)/よこどり、どろぼう(コンビ研からパソコンを)/いばる(団長命令)/かいりき/かみつく(みくるの耳朶を甘噛み)/さばきのつぶて/にほんばれorめざパ炎orつるぎのまい(ハレ晴レユカイ) 特性:わるいてぐせ 性別 ♀ 性格 なまいきorいじっぱりorきまぐれ 努力値 ご自由に 持ち物 鉢巻系orパワー系(腕章) 参考動画→http //www.nicovideo.jp/watch/sm12099307 長門有希 通常 エンペルトorムウマージorブースターorニャオニクスorゴローニャ ネイティオ:無表情なので ユキメノコ:「有希」メノコ。特性は「有希」がくれです。 ポッチャマorムウマorフカマルorユキワラシorニャスパーorネイティorイシツブテ:「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」を意識するなら。 フラエッテ(あおいろのはな):フェアリータイプで統一するなら。 ガブリアス:600族で統一するなら。 デオキシス:幻のポケモンで統一するなら。 技:かみつく(みくるとキョンに注入。)/サイコキネシスorめざめるパワー(超とか?)/ひかりのかべorまもる(朝倉からキョンを)/うたう(曲的な意味で。XD産限定技) 性別 ♀ 性格 おとなしいorひかえめorおだやか 努力値 特攻252素早さ252攻撃4 持ち物 ものしりメガネ 消失長門 グレイシア 技:こなゆき(儚さ)/かげぶんしん(通常長門と表裏の関係)/こらえるorがまん(振り回されて)/ふいうち(表情的に) 性別 ♀ 性格 おとなしいorひかえめorおだやか 努力値 HP252防御252特防4 持ち物 こだわりメガネ 備考 特性はやっぱり「有希」がくれです。 朝比奈みくる ライチュウorミルタンクorシャワーズorタブンネ ミミロップ:ビーム技も多く覚えられる。その際は特性を不器用に。 ピカチュウorミミロル:「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」を意識するなら。 フラエッテ(きいろのはな):フェアリータイプで統一するなら。 カイリュー:600族で統一するなら。 セレビィ:幻のポケモンで統一するなら。 技:ミルクのみ/メロメロ/おんがえし/ゆうわく(大人ver)/プレゼント/こらえる/ソーラービームや破壊光線などのビーム技(みくるビーム)/ピヨピヨパンチ(恋のミクル伝説)/うそなき(臆病なので) 特性 あついしぼう(ミルタンクから) 性別 ♀ 性格 てれやorうっかりやorまじめorおとなしいorおくびょうorおっとり 努力値 HP、攻撃 持ち物 ミクルのみ(重要) 古泉一樹 サンダースorヨノワール フーディン:役割を再現するならエスパー技入れてダブルで味方の格闘ポケを倒せばそれっぽいかも。 ネイティオ:使い手のイツキと名前、雰囲気、使用するタイプが似ているから。 ケーシィorネイティ:「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」を意識するなら。 トゲキッス:フェアリータイプで統一するなら。 ヌメルゴン:600族で統一するなら。 ミュウ:幻のポケモンで統一するなら。 技:スプーンまげ(まっがーれ↓)/きあいだまorなげつける(ふんもっふ!)/トリックルーム(閉鎖空間)/ひかりのかべorリフレクター(レフ板) 性別 ♂ 性格 まじめorれいせいorすなお 努力値 ご自由に 持ち物 まがったスプーンorかえんだま 鶴屋さん 色違いのニョロボンorニョロトノ キノガッサ:色的には喜緑さんっぽいが「がっさ」繋がりで。 ニョロモorキノココorバオップ:「にょろーん☆ちゅるやさん」を意識するなら。 技:キノコのほうし(SOS団に奉仕)/ひみつのちから(「機関」と繋がりがある?)/メロメロ(説明不要) /ギガインパクト(個性があるからインパクトも大きい)/てだすけ(ハルヒ達を) 特性 ほうし 性別 ♀ 性格 ようきorむじゃきorのんき 努力値 ご自由に 持ち物 おいしいみず(飲み放題) 朝倉涼子 オニゴーリ 技:とおせんぼう(むだなの。今この空間はry)/かなしばり(ありかよ、反則だ)/こおりのつぶて(長門串刺しにした槍) 特性 せいしんりょく 性別 ♀ 性格 おだやか 努力値 ご自由に 持ち物 ナイフっぽいもの 備考 種族値はALL80。非の打ち所がない優等生の種族値(笑) 喜緑江美里 リーフィア 技:こうごうせい(高校生)/うそなき/なやみのタネ/タネマシンガンorリーフブレード 性別 ♀ 性格 おだやか(穏健派) 努力値 HP252防御252特防4 持ち物 キョンの妹 カイロスorキバゴ ピチュー:イメージとかならハサミじゃないけど 技:はさむ/ハサミギロチン/シザークロス/インファイトorあばれる(ハルヒちゃん第1話) 特性:かいりきバサミ(カイロスから) 性別 ♀ 性格 ようき 努力値 攻撃252素早さ252HP4 持ち物 ひかりのねんど(図工の時間) 森さん フォレトス ドダイトスorオーロット:苗字繋がり ラティアスorイエッサン(メスのすがた):メイドつながりで。 技しぜんのめぐみ/メロメロorゆうわく/すてみタックル/まもる 性別 ♀ 性格 うっかりや(ハルヒちゃんより、ドジっ子) 努力値 攻撃252素早さ252HP4 持ち物 備考:その場合、下記の新川さんをエンペルト(コクラン)にすると フロンティアを機関に見立てることができてグッド。 新川さん ジュペッタ 技:みやぶる/トリック/なりきり/おどろかす 特性:おみとおし 性別 ♂ 性格 れいせい 努力値 HP252特防252防御4 持ち物 草案 ヤドキング 谷口(うっかりや) (ど忘れ必須(WAWAWA忘れ物~♪)) イーブイ 佐々木 サンダース 藤原 ブラッキー 周防九曜 ゲノセクト:国木田 フワンテ キミドリさん(ハルヒちゃんに登場する風船犬) グラードンorガブリアスorオノノクスorガチゴラス ティラノサウルス トリデプス トリケラトプス ケーシィorリグレー:ハカセくん ダゲキ:岡部先生 ゲームオリジナルキャラクター キルリアorアママイコ:三栖丸ミコト ニンフィア:リボンちゃん 楽曲 主題歌 オープニング 御三家全般:冒険でしょでしょ? ホイーガ:Super Driver エンディング ポワルン(太陽のすがた):ハレ晴レユカイ 挿入歌 ミルタンク:恋のミクル伝説 キャラクターソング チルタリス:その日空はきっと青い コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る ハルヒ 3つ子で色違いのガラルマタドガス(果てはオレンジ諸島のピンクの個体)[ただのポケモンには興味ありません] -- (名無しさん) 2024-03-08 01 33 36 ポケモン世界大会2010 最終決戦 ジュニアの部 前編 -- (月と太陽、コハルとハルヒ) 2022-08-17 17 16 19 ホウエンエスパータイプポケモンの統一追加をお願いします。 -- (四畳半) 2022-07-19 21 01 08 ホウエンくさタイプポケモンの統一追加をお願いします -- (四畳半神話大系) 2022-07-19 20 59 17 ゴーストタイプの統一追加をお願いします。 -- (四畳半神話大系) 2022-07-19 20 56 01 初代草ポケモンの統一の追加をお願いします。 -- (ヤミ) 2022-07-19 20 54 05 ホウエンあくポケモンの統一の追加をお願いします -- (僕) 2022-07-19 20 52 46 初代ポケモンカントーポケモンの統一をお願いします。 -- (四畳半神話大系) 2022-07-19 20 42 46 ジョウトポケモンの統一をお願いします。 -- (お断りします) 2022-07-19 20 41 56 ジョウトポケモンの統一をお願いします。 -- (俺なりの愛さ) 2022-07-19 20 40 56
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涼宮ハルヒの驚愕(前) 以下のデータは、前後編であることが発表される前のものが含まれています。 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:2011年5月25日(初回限定版)(当初予定は2007年6月1日発売予定だったが、その後発売延期となる。しかし、『ザ・スニーカー2010年6月号』にて一部先行掲載が行われた。) 初回限定版は5月25日、通常版は6月15日発売予定である。 本編ページ291P 表紙絵:涼宮ハルヒ(ザ・スニーカー2007年6月号付録の付替えカバーは朝比奈みくる) タイトル色:橙色(付替えカバーは緑色、全体色も緑色) 初出:書き下ろし 初出順第27話 裏表紙のあらすじ紹介 SOS団の面々が学年を上げたといって俺の魂に安寧が訪れることもなく、春らしい話題であるはずの旧友との再会についてはやっかいな事態の来訪を告げただけだったが、これらが引き起こすであろう事件は不確定な未来でしかありえなく、かつ過去に起きたことも磐石の一枚岩ではないという疑惑を振り払えず、つまり何が言いたいかというと面倒な立場に追い込まれてこんな独り言をぼやいてる俺の身になってほしいってことだの第10巻!涼宮ハルヒの驚愕付替えカバー(ザ・スニーカー2007年6月号付録)の裏表紙より。没バージョン。 SOS団の最終防衛ラインにして、その信頼性の高さは俺の精神安定に欠かさざる存在であるところの長門が伏せっているだと?原因はあの宇宙人別バージョン女らしいんだが、そいつが堂々と目の前に現れやがったのには開いた口も塞がらない心持ちだ。どうやら、こいつを始めとしたSOS団もどきな連中は俺に敵認定されたいらしいな。上等だ、俺の怒髪は天どころか、とっくに月軌道を越えちまってるんだぜ?待望のシリーズ第10巻! 目次 第四章・・・Page5 第五章・・・Page68 第六章・・・Page189 アニメ 全編未アニメ化 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第17巻に収録第82話『涼宮ハルヒの驚愕I』(P5-P40、何も起こらず通常通りに学校生活を送る(α7)SOS団が長門のマンションに向かう途中からキョンと九曜の会話中に朝倉が乱入する場面(β7)) コミックス第18巻に収録第83話『涼宮ハルヒの驚愕II』(P40-P60、朝倉がキョンにナイフを突きつけるシーンから九曜朝倉喜緑江美里が立ち去ったのちキョンが誰かからの『面白い冗談だわ・・・』という言葉を聞く場面まで。(β7)) 第84話『涼宮ハルヒの驚愕III』(P60-P102、長門のマンションへ戻るところから佐々木の留守電を受ける(β7)第5章の最初から入部試験のペーパーテストを終えた場面α8最後まで(α8)) 第85話『涼宮ハルヒの驚愕IV』(P102-P149、β8の最初から(火曜日朝)キョン・佐々木・橘・藤原・周防との喫茶店の会合で藤原の『好意で言ってやっている』後の九曜が発言するまで(β8)) 第86話『涼宮ハルヒの驚愕V』(P149-P169、キョン・佐々木・橘・藤原・周防との喫茶店の会合で佐々木の状況整理から佐々木・九曜・キョンが谷口と国木田に会うまで(β8)) 第87話『涼宮ハルヒの驚愕VI』(P169-P227、佐々木・九曜・キョンが谷口と国木田に会うところから、国木田・九曜と佐々木キョンの会話を経てキョンと佐々木の九曜についての特性について会話をする(β8)第6章に入り新入団員試験第一次適性検査を行うも、合格者が一人出るところまで(α9)) コミックス第19巻に収録第88話『涼宮ハルヒの驚愕VII』(P227-P282、新入団員試験合格者のヤスミが退出するところからヤスミの秘密に疑念を抱くキョンの場面(α9)β9の最初のキョンと国木田の会話から、キョンの家に佐々木が訪ねてきて佐々木が会いに来た目的を話す場面まで) 第89話『涼宮ハルヒの驚愕VIII』(P282-P295、キョンの家に佐々木が訪ねてきて佐々木が会いに来た目的を話す場面から(β9)佐々木が帰るまで(最後まで以降は驚愕後編へ)) 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 朝比奈みくる 古泉一樹 長門有希 周防九曜 朝倉涼子 喜緑江美里 佐々木 橘京子 周防九曜 藤原 渡橋泰水(ヤスミ、わたぁし) ハルヒの母親(会話の内容のみ) あらすじ 長門有希が学校を休んでいることが分かったSOS団は、長門のお見舞いに行き、世話をすることになる。 しかし、長門は「心配するな」とキョンの携帯にメールを送る中で休止状態に入ってしまう。 キョンが怒りに任せてマンションを飛び出すとそこには九曜がいた… 後に繋がる伏線 刊行順 ←第9巻『涼宮ハルヒの分裂』↑第10巻『涼宮ハルヒの驚愕(前)』↑第11巻『涼宮ハルヒの驚愕(後)』→
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第4話 ~計画~ 「何なんだよ…何だよお前は…」 おれは突然現れたもう一人のハルヒに驚きの色を隠せなっかた。そういや古泉と長門がハルヒがもう1人現れ たみたいなこといってたな… 「何言ってるの?キョン。私がわからない?ハルヒよ。」 もう1人のハルヒは本物と違いかなり静かな雰囲気だ、それに長門みたいに無表情だ… 「違う。本物のハルヒはそこで伸びてるやつだ。お前なんかじゃない。」 俺がベッドで寝てるハルヒを指差してそう言っても、もう1人のハルヒはやはり無表情だった。 「そうね、確かにあんたの知ってる『あたし』はそれだけど、あたしもハルヒよ。偽者なんかじゃないわ。ど っちが本物かどうかなんて無いわ。どっちも本物よ。」 「じゃあ一体お前の正体は何なんだよ?ハルヒの何なんだ?おまえも本物なら何で今まででて来なかったんだ ?」 「あたしは『あたし』の能力と欲求がが具現化した姿。」 一気に聞く俺に対しても大して文句も言わずに無表情にもう1人のハルヒはかなりの衝撃的な事実を淡々と語 りだした… 「あんたも知ってるでしょ、『あたし』には願望を実現する能力が有ることを、私はそれにそのまま意思がつ いた存在。簡単に言えばあたしは『あたし』の本能、そして願望。」 そこまで言ってハルヒは一旦言葉を切った。 「だからあたしは『あたし』の望んだものを全部実現しようとしてきたわ。でもその度に『あたし』はあたし の邪魔をしてきたわ。『そんなものいるはず無い。あたしは信じない』ってね。そんな風に思われるとあたし は能力を使えないの。そうね、あたしを本能とするなら、そこにで寝てるのは理性ってところね。理性に抑え られてあたしはずっと外に出てくる事も無かったし能力を使う事も無かったわ。それ程『あたし』の理性は強 いわ。普段あんたが見てるのも理性のほうよ。」 あの迷惑暴走娘が理性とは驚きだな、本能のままに生きてるやつだと思っていたしな 「それでも時々理性が弱まる時にはあたしは少しだけ能力を使う事位は出来たわ。」 それは恐らくハルヒがキレた時の閉鎖空間や長門や朝比奈さんや古泉達の事だろう。 「で、今回に限って何でお前は姿まで現したんだ?」 「言ったでしょ。理性が弱くなれば本能のあたしは出てこれるって。まあ、いくら弱くなったって『あたし』 が寝てる間しか出てこられなかったけどね。」 ああ、それも古泉が言ってたな… 「理性が弱くなったからあたしは理性を押しのけて無理やり出てくる事も出来たわ。」 「なに!?じゃあハルヒが突然倒れたのは…」 「そうよ、無理に眠って貰ったの。もうそれ位あたしたちの力関係は逆転してるわ。」 「なんでだ?なんで急におまえの方が強くなったんだ?」 俺は本能的にこのハルヒをこのまま放って置いてはいけない気がした。 「今日は七夕よね。七夕が近づくにつれて『あたし』のジョンに会いたいって気持ちが強くなってきてね、そ れで『あたし』は無意識の内にあたしの能力を頼るようになっていったわ。滑稽よね、毎日ジョンに会ってる って言うのに。」 やっぱりハルヒ(本能)は俺の…とゆうかジョンの正体を知っていやがったのか。 「まあそれでもここまで逆転するにはもう少し時間がかかったんだけどね、やっぱりあんたとみくるちゃんの おかげね。」 そこでハルヒ(本能)はやっと微妙にだが、かなり邪悪に微笑んだ。かなり皮肉な笑い方だ。 「俺と朝比奈さんのおかげって、いったい俺達が何をしたってんだ。」 「何あんた、さっき『あたし』に問い詰められたばっかりなのにまだ白を切るつもりなの?」 「あ……」 そうか、俺と朝比奈さんが抱き合ってたのが… 「分かったみたいね…そうよ、あんたとみくるちゃんがいちゃついてるのを見て『あたし』はますますジョン に会いたくなったの。で、とどめはあんたがそのことを否定しなかった事でもうあたしのほうが力が強くなっ たわ。」 そんな…まさか俺がこのハルヒを表に出すきっかけになってたなんて… もうおれはまともにハルヒ達を見れなかった。 「まあ、それでもあたしが完全に力を持って『あたし』と入れ替わるにはまだ少しだけ時間がかかるんだけど ね。」 そう言ってハルヒ(本能)は机の上にある笹から何かを取ってそれを俺に差し出した。 「もう一度『あたし』に会いたいんならこれをしっかり持ってなさい。」 顔を上げると邪悪な笑みを浮かべたハルヒ(本能)が持ったハルヒの短冊があった… 翌日…俺はかなり落ちた気持ちで俯いて北高の心臓破りの坂を上っていた。 結局あのまま俺はハルヒに何の対応をすることも出来ないまま追い返されてしまった。古泉と長門に電話した が2人とも電話には出なかったし、朝比奈さんには…あんな事があった後なのでとても電話なんてできなっか た。くそっ。偉そうな事言っておきながらまた俺は何も出来なかったじゃねぇか。 「それに…ハルヒから渡されたこれも、結局持ち歩いちまってるしな…」 俺の手の中には昨日ハルヒ(本能)から渡されたハルヒの短冊があった。そんな風にハルヒ(本能)の言葉を 律儀にも守っている自分に更に憂鬱になった。 「そういや学校はどっちのハルヒが来るんだ…?」 しかしハルヒは今日は欠席だった。 そして鬱々状態で授業中もずっと考え事をしていて気付けばもう昼休みだった。俺は昼飯も食わずに歩き出し た。もちろん部室に向かって。俺は早く長門か古泉に会いたかった。 だが部室には鍵がかかっており誰も居ない様だった。それなら直接教室に押しかけてやる… 「え?長門さん?長門さんなら昨日から来てないけど。」 … 「古泉くんなら今日は休みだけど…あなた、何で休みか知ってる?」 … 何てこった…2人とも休んでるとは、こうなりゃ朝比奈さんでも… 「やあキョンくん!みくる知らないかい!?」 突然後ろから俺に声を掛けてきたのは鶴屋さんだった。 「え?朝比奈さんも今日休みなんですか?」 「うん?そうだよっ!朝から来てないんだよぉ。キョンくんなら知ってると思ったのになぁ~。」 鶴屋さんはにやにやしながら言った。変な邪推しないで下さいよ…ん、予鈴か… 「あ~、もう時間かぁ~。それじゃあまたねっ。キョンくん!」 「あ、はいさようなら…」 まさか朝比奈さんまで来ていないとはな…予想外だぜ。おっと、岡部のやつもう来やがった。これじゃ抜け出 せん。 おれは今すぐ抜け出したいのを必死に我慢し授業に望んだ。といってもちっとも聞いていなかったがな。 そうして放課後俺は急いで長門の家に向かうためにHRの終了直後に駆け出していた。 「待ってください。」 ん?そこには意外なやつが立っていた。 「古泉…どこ行ってたんだよ。」 そう、古泉がそこで俺を待ち構えていた。そして追求しようとする俺を遮って古泉は言った。 「待ってください。詳しい話はこちらで…付いて来て下さい。」 そう言って古泉は歩き出した。当然俺も付いていく。その間に何か少しでも聞きだそうとするが、 「もう少し待ってください。ここではまずいです…」 と言われてしまう。仕方ないか…こいつの目的地に着くまで待ってやるか。 そして俺たちは黙って歩いていった。 古泉に連れられて着いたのは坂の途中の少し大きめの公園だった。 「で、こんな所まで連れて来ないと話せない事って何だ?」 「その前に貴方の方こそ話さなければいけない事が有るんじゃないんですか?」 うむ、この回りくどい言い方こそまさに古泉だ、 「実はな…」 俺は昨日起こった事を全て古泉に話した。ハルヒが倒れた事、もう1人のハルヒのこと、そしてそれらが俺が 朝比奈さんを抱きしめたところをハルヒに見られたせいだと言う事も。全部言い終わると古泉が難しい顔をし て俺を見ていた。 「やはりそうでしたか。恐れていた事が起こってしまったようですね…」 「で、お前の話ってのは何なんだ?そして何でお前は学校を休んだんだ?」 「はい、実は涼宮さんが地上から消えました。」 は?なんだって?こいつは何を言ってるんだ? 「今日の未明に大規模で強力な閉鎖空間を発生させ、そこに入りました。僕たちにはそれを感知する事が出来 ても侵入する事は出来ません。入る事が出来るのは貴方だけです。」 ハルヒが消えた?いや、そんな事よりこいつは今なんて言った?強力な閉鎖空間?侵入不可?俺しか入れない だと?どういうことだ? 「なんで俺がお前らですら入れない空間には入れるんだ?だいたい何でハルヒはそんなもん作ったんだ?」 「涼宮さんはジョン・スミスに、つまり貴方に会い、その上でこの世界の自分とあなたの関係を邪魔する要素 を一切消し、洗浄するためにその空間を作った。恐らくその空間にいれば涼宮さんの世界の洗浄を受ける事を 避ける事が出来るんでしょう。まさに旧約聖書の『ノアの方舟』ですね。そしてその方舟に乗る権利を持つノ ア、それこそ貴方なんですよ。貴方はそこに入るための鍵も持っている。違いますか?」 鍵だと?何の事だ一体……いや、待てよ… 「もしかしてその鍵ってのはコイツの事か?」 俺は古泉にハルヒの短冊を見せた… 「ええ、恐らくそれが涼宮さんの方舟に乗り込むための鍵ですね。」 そうか、それなら話は早いな。 「ところで、貴方は涼宮さんの所に行くおつもりですか?」 今更何言い出すんだコイツは… 「当たり前だろ、俺しか行けないんろ、だったら俺が行ってハルヒを連れて帰ってくるしかないだろ。古泉、 ハルヒのところに行く方法を教えろ。」 俺は真剣に古泉に聞いた。しかし古泉は突然笑い出した。 「はは、やはり貴方は思った通りの方だ。」 「何だいきなり。俺は真剣な話しをしてるんだぞ。」 「いや失敬、確かにその話も重要ですが、その前に今回の件の機関の方針を聞いて貰えませんか?」 そんな事言ってる場合ではないだろうに、 「仕方ないな、手短に頼むぞ。」 だが俺は拒否しなかった。何故だかそうした方がいいような気がしたからだ。 「ありがとうございます。実は今回の件…機関は貴方が涼宮さんのところに行くのに反対しています。」 なんだと?今日はコイツに驚かされっぱなしだな。 「それと言うのも貴方がそこに行っては状況が悪化するんではないか?そもそも貴方がそこに着いたら、そこ で涼宮さんはすぐに世界を洗浄してしまうんではないのか?それこそ貴方が涼宮さんを連れ帰る暇も無く。と 言うのが機関の意見でしてね。」 「何で俺が状況を悪化させるなんて言えるんだよ!」 「それは現にあなたが朝日奈さんとあんな事をしたせいでこんな事になったと言っても良いんですよ。そんな 人が行けば何が起こるか分かりませんからね。」 「ぐ…」 反論なんて出来なかった。それは紛れも無い事実なんだから…それでも俺は反抗した。 「でもそれじゃあ何の解決にもならないだろ!」 「たしかにそうかもしれませんね。ですが、貴方が涼宮さんのところに行きさえしなければ彼女の目的である ジョン・スミスが揃いません。だから放っておけばその内諦めて帰ってくるかもしれません。」 「そんな訳あるか!ハルヒがそんな事で諦めないのはSOS団の一員であるお前もよく知ってるだろ!!」 「ああ、そうでした、SOS団のことでももう1つ話が有るんですよ。」 これ以上何が有るってんだよ… 何故だか俺はその時古泉からいつかの朝倉のようなもの感じていた。 「実は僕に機関から新しい指令が来たんですよ。その指令とは……ジョン・スミスの暗殺、つまり貴方を殺す 事です。」 は?何だって? 今俺はとんでもないアホズラを晒してるかも知れない。そりゃあそうだ、今俺は多分今までの人生の中で一番 驚いているかもしれないからな。 「驚くのも無理は有りません。しかしもう決まった事なのです。SOS団などというものが有るから涼宮さん はこんな事を起こした。こんな事になった以上SOS団にもう存在意義はありません。むしろあリスクが高す ぎます。」 「残念ですが、SOS団はもう終わりです……危険な芽は早目につまねばなりません。いや、むしろもう遅い 位です。だから、あなたには死んでもらいます。」 そう言って古泉は懐から黒光りする銃を取り出した。しかし古泉が撃つ前に古泉の後ろの茂みから突然現れた 男たちが俺に向かって撃って来た。ああ、俺、こんなとこで死んじまうのか… ズガンッ、ズガンッ…ギンギンッ…… しかし俺は死んではいなかった。何故か銃弾は俺の前に小さなナイフと共に全部落ちてたし、俺を撃った男達 は胸にナイフが刺さって倒れていた。ナイフ? 「な!!?」 古泉もびっくりした様に振り向いてた。 ー今だ!!ー 古泉がよそ見している間に俺は走って公園を抜け出した、幸い公園のすぐ横に俺の自転車を停めてる駐輪所が 有った。 今はすぐに長門に会おう! そう思った俺は全力で自転車をこいで長門の家に向かった。 死ぬ思いで自転車を漕いだおかげか、機関の奴等に追いつかれる事は無かった。 しかし古泉がSOS団を裏切るとは…………ちっ、今はこの事は後だ!早く長門のところに… そう思うが早いか、気付けばもう長門のマンションはすぐそこだった。後はこの公園を抜ければ… ん?あれは…長門か? いつものあの公園のベンチに長門が座っていた。そして俺が近づくと長門はすぅっと立ち上がった。 「おい長門。何やってるんだ?こんなところで…」 「貴方が来るのを待っていた。」 さすがは長門だ。この異常事態を察知して俺が来るときに通るであろうこの場所で待機してたって訳か。って ことは、こいつの事だから古泉の事も知ってるんじゃないのか? 「なぁ長門…古泉の事だが━━」 「知っている。古泉一樹の所属する機関は貴方を敵性と判断し、古泉一樹もそれに従いSOS団を裏切った。」 本当に、こいつは…長門に分からない事なんて世界中何処探したって無いんじゃないか? 「それなら話は早い。俺は古泉たちに捕まる前にハルヒのところに行かなきゃいけないんだ!ハルヒの空間に 行く方法を教えてくれ長門!!」 「涼宮ハルヒの特殊閉鎖空間に入るには本来貴方の持つその短冊さえ有ればすぐに入れるが、今では古泉一樹 の機関の者たちが特殊閉鎖空間への侵入を妨害しているため不可能。」 「な!?でもお前なら何とかできるんじゃないのか?」 「不可能。涼宮ハルヒの作り出す閉鎖空間において直接干渉できるのは古泉一樹の機関の超能力者達のみ。そ れに…たとえ出来たとしても、統合思念体の許可が下りない。」 「どう言うことだよ?」 「今回私達は統合思念体の判断によりあなたに協力することは出来ない。統合思念体は今回の件に限り、古泉 一樹の機関とほぼ同意見。」 おいまさか… 「それはつまり…」 「我々も貴方を危険と判断した。統合思念体は貴方の暗殺を我々インターフェースの最優先事項に決定してい る。」 いつの間にか傾いていた夕日に真っ赤に染められ淡々と俺に死刑宣告をする長門は、いつかの朝倉よりはるか に不気味に見えた… 「じょ、冗談だろ…」 「……全て事実。」 「じゃ、じゃあ、長門はどうなんだ?本気で…俺を殺すつもりなのか?」 「……………」 長門は何も言わずに俺の目を見続けていた…… 大体二分くらいだろうか…俺と長門は何も言わず、ただお互いの目を見続けていた。が、ついに長門が少しだ け動き喋りだした。 「私は貴方を殺すつもりは無い。」 「長門。」 良かった。長門は俺の仲間で居てくれるようだ。古泉の事が有った後なだけに余計に嬉しかった。 「私は貴方を信じている。だから貴方が涼宮ハルヒを連れて戻って来ると思っているている。」 「ありがとう、長門……そういえばお前は統合思念体に逆らっちまって大丈夫なのか?」あの統合思念体の事だ、 そんな事をしたら長門は消されてしまうんじゃないのか? 「平気。今の私は統合思念体と接続していない。代わりに涼宮ハルヒの能力に接続し、機能も拡大している。」 いや全く、こいつには隙というものは無いのか? と、突然長門が俺の視界から消えた。ん?急にどこいっ━ってうぉ! 見ると長門は俺のすぐ横に片手を突き出して立っていた。そして長門の2メートル程前に誰かが倒れていた。 ん?あのふわふわの栗色の髪は… 「あ、朝比奈さん?」 「ぃ、痛いですよぉ。ぅっく…っく…」 そう、それは長門が吹っ飛ばしたと思われるその人物は、半ベソかいた朝比奈さんだった。とゆうか何故長門 は朝比奈さんを吹っ飛ばすんだ? 「おい長門。何で朝比奈さんを吹っ飛ばすんだ?可哀相だろ。止めてあげなさい。」 「断る。」 「おいおい長門。おまえはいつからそんな虐めっ子になったんだ?」 すると長門はまだ半ベソ状態の朝比奈さんを指差した。 「彼女は貴方をナイフで刺殺しようとした。」 ………は?…何だって?朝比奈さんが俺を?………ナイフだって?そんな朝倉みたいな… 「な、何言ってんだよ。冗談にしては笑えなさ過ぎるぞ。」 「冗談ではない。その証拠に朝比奈みくるはナイフを右手に持っている。」 確かに朝比奈さんはナイフを持っていた。 「そんな…冗談ですよね。朝比奈さん…」 俺がそう言うと朝比奈さんはまだベソをかきながらだが立ち上がった。 「っう、ぐすっ、長門さんの言ってる事は本当です。ひっく、わたし達の組織もキョ…うっく、キョンくんを …こっ、殺すつもりです。」 俺は今日三度目の衝撃を受けた。そして今回のが一番の衝撃だったのは言うまでもない。 「だ、だから…わたしは、うっく…キョンくんを、ひんっ…ころっ、っぐ…殺さなきゃいけません。ぅう。」 もはや朝比奈さんはベソで無く、本当に泣いていた。 しかし俺は朝比奈さんにそんな事を言われようとも全く反応する事ができなかった。 本当に、本当にショックだったのだ…古泉や長門のときもかなり動揺したが、これとはまた違う気持ちだった。 あの時は信頼とかそういうのがごちゃごちゃした気持ちだったが、今はもっと、なんだか胸の辺りが引き千切 れそうな…そんな気持ちだった。 「させない、彼は私が守る。」 「ながっ、うくぅ…な、っく…長門さん…」 長門が俺と朝比奈さんの間に立ち俺を守ろうとする。この状況では嬉しい事だが、今の俺はただ立ち尽くして 驚いている事しか出来なかった。何にも考えられなかった…考えたくも無い… 「貴方は我々の計画の邪魔。……これ以上彼を狙うなら…消えてもらう。」 「…ぐすっ、ひっく………うっ、ぅうぅぅ…」 「貴方はSOS団に所属していた。それでも彼を殺すと言う。貴方にとってあの日々は偽りだったと…貴方の 行動はそういうことになる。」 長門がそう言うと朝比奈さんは涙を浮かべた目でキッ!と長門を睨み付けた…いや、別に怖くは無いが…いや むしろ可愛い位だ。こんな時に何言ってるんだ俺は! 「なっ!長門さんはっ!うっく、ほんとにっ!そっ、そう思うんですかっ!?っくぅ…」 朝比奈さんは涙をぼろぼろ零しながら長門に向かって叫んでいた… 「あ、あ、あのっ!ぅぐっ、楽しかった日々がっ!わたしには偽りだったなんて、そんなっ、ぐすっ、ぇぐ、 そんなっ!そんな酷い事っ!ほんとに有ると思うんですかっ!?」 「………」 長門は、俺の見間違いじゃなかったとしたら、少しバツの悪そうな表情になっていた。 「ほっ、ほんとは!こ、こんな事したくないんです!ぅっぐ…出来るのなら、SOS団と…キョンくんといつ までも、ぅう…一緒に居たかったんです!!うっく、ずずぅ…それでも…それでもわたしには!禁則事項が有 るからっ!ぅぐっ、わたしは指令には逆らえない暗示にかかっているんです!……ひんっ…逆らえないんです よ。…どんな指令でも……たとえそれがっ!一番大切な人の暗殺であっても!!」 朝比奈さんはもう涙も枯れてしまった様だ。それでも未だにぇぐぇぐとベソをかいている。 しかし待て、今朝比奈さんはなんと言った?暗示?まさかこれは朝比奈さん自身の意思と全く関係なく従わさ れているのか?とゆうことは… 「朝比奈さん…貴方は本当に俺を殺したいんですか?」 「そっ、そんな訳っ…っえぐ……無いじゃないですかっ!ぅうう…」 しまった、また泣いてしまいそうだ… 「長門、禁則の暗示ってのは一体なんだ?」 俺は取り敢えず一番気になった事を聞いてみる。ひょっとしたらこれが突破口になるかもしれない… 「朝比奈みくるはこの時代に来るときに、強力な暗示を掛けられている。とても強力。」 「強力って、どのくらいだ?」 「その暗示に逆らった動きをする事が不可能になり、結果的には体の主導権すら奪えるほど…」 つまり物理的に指令には逆らえないって事か。それじゃあさっきの朝比奈さんも仕方ないな…因みに朝比奈さ んは泣きじゃくっていて、襲ってくる気配は無い。 「じゃあ長門。その暗示を取り除く事は出来ないのか?」 「出来ないわけではない。しかし今の私の状態では無理。」 「なんでだ?ハルヒの力を使って機能を拡大したんじゃないのか?」 「機能は拡大したが、それでも最低あと一体高性能なインターフェースが必要。」 なんとそれはいくらなんでも無理じゃないのか?長門は統合思念体を逆らって俺の味方に成っている訳だから な、インターフェースが協力するわけが無い。 「何で2人必要なんだ?」 「朝比奈みくるの暗示は二重構成になっている。そしてそれは片方ずつでしか解けない。片方を解き、もう片 方を解くには最初に解いたほうをそのままの状態を保持しなくてはならない。しかし両方の暗示に同時に干渉 する事は不可能。そこで暗示が解けた状態を保持する為のインターフェースが必要。」 「ほかに手は無いのか!?」 「…………私の知る限りではない。」 くっそ万事休すか… 「困ってるみたいね。私の出番かしら?」 突然かけられる声、そいつを見て俺は本日四度目の驚愕をする。 そこには…
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第4周期 Dear my sister 卵の殻が向けるようにして真っ赤に染まった世界は崩れてゆき、現れた空の色は灰色だった。ハルナの精神世界が消滅して元の閉鎖空間に戻ってきたのである。 「なぜだ」 なんと目の前に神人がいるではないか。 しかもこちらを覗きこむようにしてじっと見ているではないか。 まさかのまさかとは思うが、狙われているのではないか? 蛇に睨まれた蛙の如く、神人に見られている俺は硬直してしまった。 「なーに固まってるのよ」 「いや、だって目の前に居るんだぞ……」 「そうね、でもまあなんとかなるんじゃない?」 そう言っているハルヒも、神人の意図がつかめないらしく、にらめっこが一分弱ほど続いた。 俺達を見たまま、腕をあげてとある方角を指をさしている。 「向こうに何かあるみたいね、行ってみましょ」 ハルヒは走りたいようだがハルナを起こさないことが優先されたらしく、早歩きで進んでいく。俺は慌る必要もなくその後をついて行った。 「古泉君!」 「お疲れ様です」 神人が指していた方角には、古泉を先頭に機関の御一行が俺達の帰還を待っていた。 ここにいたのが古泉だけだったら「何だお前だったのか」と言っていたが、今は森さん達がいるのでそう言えまい。 「約束を破って申し訳ありません。言われたとおりに待機していたのですが、神人が現れたので万一のことを考えて迅速に行動できるよう閉鎖空間で様子を見ていました」 「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、何とか今日のところは解決したわ」 「こちらは何一つ異変はありませんでしたから、うまくいったようですね」 その察しは正しいが、無駄に爽快なスマイルをいちいちこちらに向けるのは控えて頂きたい。 「ひとつ残念なことは、時間が巻き戻されてしまったということでしょうか」 「なんだって!?」 俺がそうリアクションをすると、森さんが加えるように言った。 「涼宮ハルナさんは昨夜11時以降存在していませんでしたから、それに合わせる形になったのでしょう」 「じゃああたし達はハルナが寝た時間に戻されちゃってるってことね。やれやれ」 そう言うとまたハルナの髪をなでた。 また一日をやり直さなきゃならんのか……。 「別にいいじゃない。また寝られるんだし」 ハルヒが眉間にしわを寄せ、口を尖らせて言う。そこまで不快だったのだろうか。 「そう言う考えでいいのか」 「そういうもんよ」 「とは言ったものの、どうやって戻るんだ」 「そうねぇ、普通にここから出てもいいんだけど、それだと家まで帰るの面倒だし」 確かにここから自宅まではかなりの距離がある。時間がかかりそうだ。 「よろしければ我々が家まで送りしますが」 「ありがとう、でも一番手っ取り早いのは……」 古泉の申し出を断ると、俺の顔を覗きこんで言った。 「前と一緒の方法でいい?」 「は?」 と言いますと……あれですか……。ハルヒは眠っているハルナを森さんに預け、準備万端といった面持ちである。 「SleepingBeauty」 「過剰なまでに分かりやすく言わないでくれないか、というか何で知ってるんだ」 「あたしをなめないで頂戴。じゃ、さっさと帰りますか」 そう言うとハルヒは俺の襟首を掴んで引き寄せる。当たり前のことだが顔が近い。 「ちょちょちょちょっと待て心の準備が」 「準備なんか要らないわよ馬鹿」 次の瞬間には、もう俺は言葉を発することが出来なくなっていた。 嗚呼、機関の皆さんの目の前で……。 「ぅはっ!?」 そして気付くと、自室の机に突っ伏して寝ていたわけである。 「ん、戻ったのか……」 目を開けて十数秒後、頬に張り付いていたのはよだれでしわくちゃになった数学のノートであると気付いた。そこから寝起きとは思えない素早さでティッシュペーパーを掴んで染みを拭き取ったが、健闘むなしくそこに書いてあった数式はもはや救いようのない状態となっていた。 ノートの救出を諦め、ティッシュを丸めてゴミ箱に投げた。時計を見ると、午後11時を過ぎたところであった。確かにハルナの寝た時間に戻されているようだ。 今改めて考えても、ハルヒのあれは強引過ぎやしないだろうか。いや、確かに俺の場合も……何を言わせるつもりだ。 嗚呼翌日古泉に何といわれるのだろうか。そしてどのように弁明すれば良いのだろうか。 「なんつうことしてんだよ俺……」 そしてまたあの時のように頭を抱えて一人悶絶していたのである。 「いや、したのは俺じゃないだろ! ハルヒが強引に……ぁぁ」 ダメだ、いくら言い訳したところで何も変わりはしない。思い出したら恥ずかしさ満点だ。 翌朝古泉にどのような措置を取ろうか対策案を考えるのは学校に行ってからでも十分間に合うだろうと考え、もう寝ることにした。 正直なところ、超絶リアルお化け屋敷を探検して心身ともに疲れていたのである。 そして俺はベッドに横たわり、目を閉じた。 「ん?」 ふと目を開けると、見上げた空は暗く、辺りは灰色に包まれている。 「ってまたかよ!」 勢いよく跳ねるように飛び起きると、しばし茫然としていた。 また制服を着ている。これで俺がいる場所は確定した。 「閉鎖空間……」 そう呟いた俺の声が半泣きだったのはなかったことにしてもらいたい、余りにも情けない。 もう一回寝られると言っていたではないかハルヒよ……。 確かに時間は巻き戻されていたわけだが、これじゃあ眠れなさそうだ。 「あ、キョン君が起きましたよ」 「おや、お目覚めになりましたか」 その声のした方向を向くと古泉と朝比奈さんがいた。 「……おはよう」 訂正及び追記、長門もいた。 勿論全員が制服姿である。みんなが閉鎖空間に集合するとは珍しい。 「俺達はどうしてここにいるんだ?」 「涼宮ハルヒに呼ばれたと考えられる」 まあその答えは全くもって予測通りであって。 「何のために1日に2回も連続で……」 「え? キョン君は2回目なんですかぁ?」 そのことを知らない朝比奈さんが見事なリアクションを見せてくれた。 「ええ、いろいろありまして彼と僕は2回目なんですよ」 こっちを見ながら『いろいろ』とか言わないでくれ頼むから。朝比奈さんのその視線からすると、間違いなく古泉のせいで勘違いしている。 「ハルナのことで一悶着ありまして」 誤解を解こうと弁明を始めたその時、青い光が灰色の世界を照らした。 「現れましたね」 学校のグラウンドに神人が姿を現した。下を向き、腕はだらんと下がったまま動かない。 「あれは一体何なんですかぁ……?」 朝比奈さんが不安で泣きそうな顔をしているが、前回同様あいつが何をするということもなければ大丈夫だろう。 「そう言えばハルヒはどこだ?」 「あそこ」 長門が指さした先、ハルヒがいたのはなんと神人の目の前だった。 「あんなところに、大丈夫なのか?」 その距離は20メートルあるかどうかという至近距離である。 さっきは大丈夫だろうと言ったが訂正する。今回の神人がアグレッシブではないとはいえ、あれだけ近いと流石に不安になってきた。神人が一歩でも歩き出せば大変なことになる。 「僕も懸念していましたが、あの状態から全く動いていないので、さほど危険ではないと思います」 「そうは言ってもだな、あれが動き出したら……」 「その時は僕が何とかしますのでご安心を」 長門がはっとした表情を浮かべた。 「どうした」 「情報フレア発生の予兆を感知、直ちに観測を開始する」 「あいつ、これを見せるために呼んだのか?」 ハルヒの周囲がやけに眩しい。 「……………始まる」 まるで長門のそれを合図にするように、神人が光の粒子となって消えていく。その粒子が渦を巻き、竜巻のように高速回転していた。 「これが、フレアなのか?」 「まだ。これから」 竜巻はしばらくすると消えてしまった。 ……。 「来た」 「?」 長門曰くもう始まっているらしいが、さっきまで眩しかった光はすっかり消えている。見た目では何も変わったことはない。 とてもフレア(爆発)が起こっているとは思えない静けさである。 「本当にフレアが起こってるのか?」 「情報は物質ではない。視覚化させなければ目視出来ない。でも、涼宮ハルヒを中心として膨大な情報が生み出されているのは間違いない」 今、グラウンドに立っているハルヒからとてつもない勢いで情報が生み出されている(らしい)のだ。 その情報量がどれくらいかは分からない。バイト数で表すとそれに必要な接頭文字はテラ(10^12)やペタ(10^15)では足りないだろう。もしかしたらヨタ(10^24)でもゼロがたくさん並んでしまうような量かもしれない。 長門のパトロンが待ち望んでいたような規模の現象なのだから、世界トップクラスのスーパーコンピュータでも処理出来ないような代物に違いない。 「今視覚化する。待ってて」 突然、目の前にガラス片のような物体が現れた。それらの量といったら、前方にいるハルヒの姿が全く見えないほどだ。しかもそれらが高速でこちらに飛んできているではないか! 「うわっ」 「ひゃぁっ」 「うおっ」 長門以外の3人はそれらから身を守ろうと重い思いの手段を講じていた。しかし破片はそのまま身体をすりぬけていった。 「これが、情報?」 「その人が最もイメージしやすい形になる。だから見え方は人によって異なるかもしれない」 俺には七色に輝くガラス片に見える。物質ではないのでぶつかることはないにしても真っすぐ飛んでくるのはやはり怖い。 その情報のかけらたちは四方六方に飛び散った後、はるか上空へと真っすぐに飛んでいき闇の中に消えていく。 どのくらい続いただろうか、次第にガラス片のような情報のかけらの数は減っていき、情報爆発とやらは終わった。 「観測終了」 長門がそう呟く。俺達は、目の前で起こった「すごいもの」が脳に焼き付き、言葉が出なかった。 どこか宙ぶらりんになっていた意識を戻したのは、ハルヒがこちらへ走ってくる足音だった。 ハルヒは息切れしていた。何もそこまでして走らなくても。 「どうだった? すっごいでしょ」 ああ、確かに超大規模な超常現象だったよ。 俺がそう答えると、ハルヒは高らかに言った。 「えー、この度は団長主催の第一回情報フレア観測会にご参加いただき誠にありがとうございましたー!」 主催って、やっぱりお前が呼んだのか。 「何よ、わざわざ招待したんだから有り難く思いなさい」 そう言って膨れっ面をするので、「はいはいありがとうな」と言って頭を撫でたら思い切り払い退けられてしまった。俺を一睨みすると視線を長門へ移す。 「有希、どうだった?」 「問題なく観測は完了。統合思念体に送信して分析を行なっている」 「そ、じゃあこれにて解散!」 そう言うと俺の襟首を掴んで引き寄せる。今にも顔と顔がぶつかりそうなほど近くに……、 え? 「なによ、文句ある?」 いや、文句ある無し以前にまたですか。俺だって何をしようとしているのかは分かってるぞ。 「なら尚更よ。この方が手っ取り早いんだからいいじゃない。それとも深夜の暗ーい住宅地をたった一人で帰れるのかしらー?」 こいつ、俺がハルナを連れて戻るのにどんな怖い経験をしたか知ってて言っているだろ。何という悪魔の笑顔。 「じゃ、2回目いきますか」 ……お前、顔赤いぞ。 「う、うっさいわね、あたしだってそれなりの準備はいるのよ」 古泉、期待するような視線は止めろ。長門と朝比奈さんも興味津々な表情をしないでください。 その視線がハルヒにも気になっているのか、しばらくこう着状態が続いた。 「……」 「しないのかよ」 「さっきはあたしがしたんだから、今度はアンタからしなさいよ!」 「無茶言うな」 しかしこの状況、生殺しだ。 「もーじれったいわね! するならする、しないならs……」 うるさいのでその口を俺が塞ぐことになってしまった。あくまでもそうなってしまったんだからな。 「うぐぉっ」 そして今度はベッドから転落して目が覚めたのである。 「さ、3時……」 時計を掴む手は震えていた。 「二度も……あんなことを……」 そして次の瞬間にはいつかの時と同様に頭を抱えて悶絶していた。 お陰で今月最高に眠れぬ夜となったのであった。 翌朝、俺は今シーズン最高の睡眠不足による強烈な眠気と戦いながら、通学路を歩いていたのである。 途上、何やら話しかけてきた谷口のトークを軽く流しながら昇降口に進み、止まることのない欠伸を噛み殺しながら上履きに履き替える。 廊下で待ち構えていた長門に会った。また報告があるらしい。 「貴方に報告すべきことがある」 「昨日のフレアについてか?」 「それはまだ分析中。今回は涼宮ハルナについて」 今度はどうなったのだろう。少し緊張しながら長門の報告を聞く。 「反対派は、涼宮ハルナの記憶修正を条件に賛成に回るとしていたがそれを却下した」 「どうしてだ、せっかく相手が譲歩してきたのにそれを突っぱねるなんて勿体無いぞ」 正直、俺も記憶修正には反対していない。あんな記憶を背負っていくなんて辛いだろうと考えているのである。 しかし長門は首を横に振った。 「記憶がフラッシュバックした場合を想定した結果、取り返しのつかない事態になると判断した」 「二の舞どころじゃ済まなくなるってことか?」 「そう。リセットできない可能性もある」 それを考えていなかった。フラッシュバックして凄惨な記憶が一気になだれ込んだらどんな精神状態に追い込まれるか、想像するまでもない。 「シュミレーション結果を提示したところ、反対していた主要な派閥は折れた」 軽く反省していた俺に飛び込んだその言葉に、一瞬耳を疑った。 「…………なに!? つまりOKってことだな!?」 「そう。こちらの主張が通った」 「よくやった長門!」 「痛い」 歓喜のあまり、肩を掴んで激しく前後に揺さぶっていた。 「あ、すまん」 そうだ、ここは廊下だ。またしても「何してんだこいつ」という視線が四方六方から容赦無く突き刺さる。(心が)痛い。 「いい。また放課後に」 俺には大ダメージを与えた視線という名の矢は長門には効果がないのか、そう言うと背を向けて歩いていく。 「忘れていた」 立ち止まって振り返る。長門が言い忘れるとは珍しい。 「2人の『あれ』は非常に興味深い」 長門から放たれた矢がぐさりと突き刺さる、一番ダメージがでかかったのではないだろうか。既にボロボロだった俺の精神はオーバーキルされていた。 「ちょ、長門……」 「ジョーク」 あはは、冗談がきつ過ぎますよ長門さん……。 (半ば抜け殻の冗談で)教室に入ると、既にハルヒがいた。いつかの時のように外を眺めていて、着席した俺に気付いていないのかわざとなのか、こちらを見ない。 「ハルヒ」 「……なに」 聞いているのか微妙な返事である。 「寝不足か」 「……さあ」 「……」 「……」 会話が成立しない。 諸問題は解決したというのに、結局昨日や一昨日と変わらずセロハンのように薄っぺらな言葉のみを交わすだけであった。 放課後、部室に行くと俺はまたしても遅刻のようで、ハルヒがまたしても仁王立ちしていらっしゃる。 「遅い!!」 すっかりいつものテンションに戻っているらしい。一方の俺はといえば相変わらずである。 「どっかの誰かの所為で夜眠れなくてな、どうも素早い行動がとれないんだ」 「ばっかじゃないの?」 何で顔が赤いんだ、お前がみんなの前でやったんだろうが。お前も眠れなかったのが今朝ぼーっとしていた原因か? 「だっ、誰がそんなお間抜けと一緒なもんですかっ」 「……ツンデレ」 「有希!?」 「迂濶」 長門の二度目の爆弾発言の投下により、俺とハルヒはどこかに矢が刺さった状態になっていた。 「……まぁそれはいいとして、みんな揃ったことだし、第3回緊急会議を始めましょ」 「まず、何か新しい動きがあったらどんどん言ってちょうだい」 ここで、朝比奈さんが手を挙げた。 「今朝、報告がありました」 「ようやく未来人も動き出したのね」 「どうだったんですか?」 「ハルナちゃんの出現による未来への影響は、危惧されていたよりも少ないみたいです」 「そう、よかった。じゃあこれで心配する必要は無いってわけね」 これは一昨日には朝比奈さん(大)から聞いたことなのだが、それは知らないことにしているのだ。 「こちらも涼宮ハルナが提示した条件を呑むことで一致した」 長門のその報告に、ハルヒの顔は一気に眩しく輝いた。 「それホント!? ありがとう有希!」 「じゃあ、これで解決ってことでいいんだな?」 「揉め事が起こらなくてよかった、もうこれで安心ね」 「では緊急会議を開くことはしばらくなさそうですね。おや?」 部室の扉が開いた。そこには、赤いランドセルを背負ったハルナがいた。走ってきたらしい。肩で息をしているし、汗でぐっしょりになっている。 「昨日は、ごめんなさい」 俺達は軽く困惑していた。ハルナが謝る理由は分かっていたが、それは謝る必要があるのだろうか。 「私のせいで大変なことになって……それで……」 「あのなぁハルナ、別に謝……」 俺が言うよりも、ハルヒが立ち上がるのが早かった。そしてまたあの高い音が部室に響いた。 ハルヒがまたしても思い切りハルナの頬を叩いたのである。やり過ぎだ、と言いたかったが、ハルヒの物凄い剣幕に負けてしまった。 「よくもそんなことが言えるわね!!」 マジギレというものだろうか。ハルヒが烈火のごとく怒鳴っている。 俺と古泉は正直怖くてとても手が出ず、長門も硬直していた。 終いにはそのまま蹴飛ばしてしまうのではないかという程の怒りようであった。 朝比奈さんが勇気を振り絞ってハルヒを止めようとしたが、顔のまわりを飛ぶ虫を払うかのようにあっさり振り払われた。 「あたしが世界のためにやってきたと思ってるの!?」 ハルナの肩をしっかりと掴んでいる。もう一回叩かれると思ったのだろう、ハルナは目をぎゅっと閉じていた。 が、ハルヒはハルナを抱き寄せていた。 「ハルナのために決まってるでしょ!!」 「…………ありがとう……」 その週の土曜日、涼宮姉妹を除いた俺達は長門の部屋に集合していた。 長門が時計を見て言った。 「来る」 皆がうなずいた。俺は立ち上がり、準備を始めた。 ハルヒには、ハルナと一緒にここへ来るようにメールを送信してある。メールに書いた時間よりも早く来るのは想定の内である。 待機して5分と経たないうちに扉が開いた。 「キョン、あのメールはどういう……」 玄関で待ち構えていた俺は、二人が入って扉を閉めたタイミングを狙ってそれを構えた。 「え……?」 「ちょ、ちょっとキョン?」 喰らえ。 マンションの一室に火薬が炸裂する音が響いた。 「………………へ?」 身の危険を感じてハルヒの腕にしがみついて目をつぶっていたハルナは、予想外のことにちょっと間の抜けた声を出した。俺はそれに思わず吹き出しそうになった。 手荒い歓迎によって涼宮姉妹は金色のテープまみれになっていた。 大量のテープの束を頭に被ったハルナはその状態のまま目を点にしている。ほぼ同じ状態のハルヒは静電気で髪や服にまとわりつくテープをに不快感を露にしていた。 「うーわ……、ちょっと何よこれ」 バズーカ型クラッカー、2000円也。貴重な一発なんだぞ。 「あのねえ、そういうのを訊いてるんじゃないの。ここでするなんて聞いてなかったわよ」 「サプライズってのは重要だと思うんだがな」 「最初に提案したあたしを差し置いて計画を変更するなんていい度胸してるじゃないの」 パキパキと指を鳴らす音が聞こえる。 「すまん」 その眼光で凍りついた俺は反射的に謝罪の言葉を述べていた。どうか罰は無しの方向でよろしくお願いします。 「姉さん、これは……?」 妹の髪に絡み付いたテープを払いながら姉がネタバラしをした。 「遅れちゃったけど、ハルナの誕生日パーティーよ」 あの日を悲劇があった日ではなく、ハルナの誕生日にしようということが満場一致で決まったのだ。 そしてそのことはハルナには内緒にして各々がパーティの準備をしていたのだが、ここで行うことはハルヒにも内緒にしていたのである。 「涼宮さん、早く早く」 玄関にいる俺達に早く来るようにと、朝倉が催促をしている。 「ってぇ! 何でお前が!」 「あら、悪いかしら?」 「お前を呼んでないしそもそもお前はパーティーのことは知らないはずだろ」 「こういった場は賑やかな方がより盛り上がる」 「あ、長門が誘ったのか?」 「そう。何か問題でも」 「いえ全く」 朝倉も飛び入り参加し、大勢が集まった誕生日パーティーはそれはもうにぎやかなものであった。 ハルナは見事にロウソクの火を一発で消した、さすがである。 さて、ロウソクの火が消えたことだし、ケーキを切って……朝倉、ケーキを切るのにそのナイフを使うな。 「ダメかしら」 駄目だ、ちゃんとした調理用具を、って聞いちゃいない。長門、その横でイチゴの数を数えるのは止めなさい。 「こっちが多い」 後で均等になるように分けてやるから我慢しなさい。おい朝倉、切ったあとにナイフについたクリームを舐めるなよ行儀の悪い。 「いいじゃない。クリームが勿体無いもの」 わざわざ妖艶な笑み浮かべてこっち見んな、調子に乗って舌切っても知らないぞ。 「おやおや、世話好きですねえ」 お前はニヤニヤするのを一刻も早く止めて手伝え古泉。さもなくばお前に回ってくる食い物はないぞ。 「それは恐ろしい」 今上げてる両手に皿をのせてこい。 パーティーが始まると、みんな騒がしく会食していた。 その喧騒の中、ハルヒが飛び級の提案をしたがハルナはそれを拒否した。 「どうして?」 姉の問いかけに、下を向いて答えようとしない。 「怒らないから言いなさい」 その台詞ってかなり矛盾してるよな、と俺が呟いた瞬間、俺の視界は音速で繰り出された拳によって真っ白になった。酷くないかこれ。 「え、あ、大丈夫ですか……?」 「ぁぁ大丈夫、続けて……くれ」 「それで? 理由は何なの?」 「学校で友達ができたから」 なんとも微笑ましい理由であった。 「そこのロリコン、ニヤニヤしない」 なぜこうも冷たい。 「だーかーらー……」 哀れな俺を誰か救ってくれ。 パーティーがお開きとかなると、今回の一連の騒動の最後の仕事が始まろうとしていた。 「座標計算中」 ハルヒとハルナは、平行世界の「俺」に謝罪しに行くのだという。そりゃあ、一度殺そうとしているのだからな。 各勢力の協力の元、二人は別世界への小旅行に向かうのだ。 「準備ができた」 「ありがとう有希」 「確認する。貴方はこれが最初で最後であると言った。これに間違いはない?」 「勿論よ。これ以上迷惑をかける訳にはいかないしね」 「分かった」 二人は私服を着ているので制服に着替えたりしなくていいのか尋ねたが、曰く私服は別世界のハルヒであることの証明とのこと。もっと効果的な手段もあるらしいが禁則事項らしい、どこがどう禁則なのやら。 「向こうにも、アンタとあまり変わらないキョンがいるんだけどね。改めてみるとやっぱり別人かもね」 「そりゃあ全く同じということはないだろうな」 「あっちのキョンの方が勇敢で格好良かったわよ」 な、なんだと? 「半分冗談よ」 半分ってどういうことだよ半分って、俺が劣ってるのに変わりないじゃないかそれじゃあ。 「はぁ……思い出してきちゃった……」 頭に手をのせてしゃがんでしまったハルヒの肩に、ハルナが手を置いた。それに反応してハルヒが顔を上げた。弱々しい笑みを浮かべていた。 「ごめんね」 ハルナが首を横に振った。 「謝らないで」 「ありがと」 ハルナと手を繋いで立ち上がる。と同時に長門が告げる。 「戻るタイミングは貴方達で決められる。でも、長居は禁物」 「分かったわ。じゃ、行ってくるね」 長門が何やら唱えると、二人を光が包んだ。それが二人の影を見えなくするほどに眩しく輝くと消えていった。 二人がいなくなった部屋で、片付けを済ませていた俺達は何をするということもなくくつろいでいた。朝倉はくつろぐどころか、部屋の一角を占領して熟睡していらっしゃる。 「しっかし、俺達がどうなったのか詳しくは教えてはくれなかったな。長門、お前のところにそれに類する情報はあるんだろ?」 「涼宮ハルヒの記憶はごく一部のみ閲覧が可能だった。でも、私には許可が下りていない」 「どうしてだ?」 「理由を尋ねた。統合思念体からの答えは、想像を絶するという短いコメントのみだった」 想像を絶する、か。俺がハルナの精神世界で見せられたのはちょっとした記憶の片鱗に過ぎないから、それ以上なのだろう。 「そういえば、あの時の情報フレアはどうだったんだ?」 「統合思念体が観測出来た情報の多くは、未知の暗号化が施されていた。分かっているのは、同一の情報を複数回送り出していたということだけ」 「何で暗号化なんてしたんだろうな、発信した意味がない気がするが」 「恐らく、」 古泉が割り込むように言った。 「ストレス発散のようなものではないでしょうか。愚痴を紙に書き連ねて破って捨てるのと同じようなものだと思います」 確かにハルヒが経験したものはかなりの負担だろうからな、古泉の主張も一理ある。 「統合思念体は情報の解析を保留している。破棄する可能性もある」 「せっかく受信した情報フレアを調べないで捨てるのか?」 待ちに待った情報フレアを観測出来たというのに、それは勿体無いのではないかと考えるのは素人なのか。 「そう。仮に解読が出来たとしても、それが本当に重要なものであるかは疑問」 「そうか、じゃあ、完全になかったことにしてもいいのか?」 「そうはいかないかと思います。お二方共に記憶はしっかり残っているわけですし、闇も完全に消えたとは言えません。今後どんなことが起こるかは」 「闇の影響は報告されてないです」 再び割り込んできた古泉にそれ以上言わせない勢いで朝比奈さんが割り込んだ。 「ハルナちゃんはしっかりしてますし、大変な事は起こらないと思います」 「済みません朝比奈さん、ですがこれが我々の仕事ですから」 「古泉、お前のところの機関はどうなるんだ?」 「これからも我々の活動方針に変更はありません。しかし貴方に頼る回数が増えるかもしれませんね」 そうか、ハルナの精神世界が発生した場合、入れるのは現段階では俺とハルヒしかいないのか。あの空間は入る人を選ぶんだったよな。 「頼るのはいいが早くハルナに信頼されるよう努力するんだな」 「肝に銘じておきます」 「長門、因みにあの情報フレアの量はどれくらいだったんだ?」 「現段階での情報量をバイト数で表すとおよそ3GcB」 なんだか知らない単位が聞こえたような気がするのだが。 「ぐ、ぐるーち?」 「そう」 「それはどれくらい大きいんだ?」 「分かりやすく表現するならば、SI接頭辞ペタの1024倍の1024倍の1024倍の1024倍の1024倍」 その説明が果たして俺にとって分かりやすいのか分かりにくいのか……。ペタってのがテラの1000倍だったよな、つまり……。 「すまん、逆によくわからない」 「10の30乗」 「ああ、とりあえず馬鹿デカイってことはよくわかった」 「そう」 長門は読書を始め、古泉は持参してきたマグネット将棋で俺と対局している。朝倉は相変わらず寝ている。 朝比奈さんが煎れてくれたお茶を飲む。うん、うまい。 「いつ戻ってくるでしょうか」 急須を見つめながらそう呟いた。 「何か都合があるんですか?」 「いえ、お茶が一番おいしくなるタイミングがあるものですから」 「帰ってきてからでもいいんじゃないですか?」 「丁度のタイミングで出せたらかっこいいかなーと思ったんです。ちょっと無理ですかね」 そう言ってこちらに微笑みかける。そのスマイルのおかげでお茶が更においしくなる。 「賭けましょうか。俺は今から30分後だと思います」 「んー、25分後くらいでしょうか」 「では僕は35分に」 「40分」 どうやら全員(寝ている朝倉を除く)がこの賭けに乗ったようだ。 「勝った方はどうします?」 古泉のその言葉に俺は内心焦った。朝比奈さんはわたわたと慌てている。 「え? あ、いや、本当に賭けるんですか?」 「冗談です。あくまでも予想するだけですよ」 まさか古泉のジョークにここまで動揺するとは、不覚である。 もう一口飲む。朝比奈さんの煎れるお茶はたとえ冷めても十分においしい。それでも朝比奈さんにはこだわりがあるのだろう。 ようやくいつものSOS団に戻った。今後、ハルナがどんな騒動を起こしてくれるのか、少し楽しみである。世界を変えない程度にな。 「角は貰った」 「あ、ま、待って下さい」 「待ったは1回だけな」 二人が戻ってきた時に何と言ってやるべきだろう。 シンプルに「おかえり」でいいか。 周期数不明 Brack Jenosider